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資本政策とは?資本政策表の作り方と失敗しないポイントを解説

資本政策とは?

資本政策表の作り方と失敗しないポイント

スタートアップが外部から資金を調達するとき、「いくら集めるか」と同じくらい大切なのが「誰に、どれだけ株式を渡すか」です。一度渡した株式は簡単には取り戻せないので、最初の判断が上場やM&Aのときまで影響します。

この「誰に・いつ・どれだけ株式を渡して、いくら調達するか」の計画を資本政策といい、それを一覧にしたものが資本政策表です。本記事では、資本政策の考え方、資本政策表の作り方、失敗しやすいポイント、見落とされがちな税務上の注意点を、公認会計士・税理士の立場から解説します。

資本政策とは?

株式を「誰に・いつ・どれだけ」渡すかの計画

資本政策とは、会社の株式を誰に、いつ、どれだけ渡し、それによっていくら資金を調達するかを決める計画です。具体的には、次のようなことを決めていきます。

  • 資金調達のタイミングと金額(シード、シリーズAなど、どのラウンドでいくら集めるか)
  • そのときの株価と、新しく発行する株式の数
  • 創業者・投資家・役員・従業員の持株比率
  • ストックオプションとして確保しておく枠

なぜ最初に考えておく必要があるのか

資本政策が重要なのは、株式の発行は後からやり直すのが難しいからです。借入であれば返済すれば終わりますが、株主になった人から株式を取り戻すには、相手との合意

果、重要な決定を創業者だけで決められなくなったり、追加の資金調達で渡せる株式が足りなくなったりします。資本政策は、最初の株式を渡す前から考え始めるべきだと思います。

資本政策表とは?

資本政策表で見るもの

資本政策表は、ラウンドごとに「誰が何株を持ち、持株比率が何%になるか」を時系列で並べた表です。一般的には、次の項目を入れます。

  • ラウンド(設立、シード、シリーズAなど)と時期
  • 1株あたりの株価と、新しく発行する株式数
  • 調達額と、調達後の企業価値(ポストマネー・バリュエーション)
  • 株主ごとの株式数と持株比率
  • ストックオプションなどの潜在株式を含めた持株比率(完全希薄化後の比率)

特に最後の「完全希薄化後」の比率は大切です。ストックオプションは行使されるまで株式ではありませんが、行使されれば持株比率は下がります。投資家との交渉でも、この比率をもとに話が進むことが多いので、発行済株式だけでなく、潜在株式を含めた比率も必ず並べておきましょう。

資本政策表の例

簡単な例で見てみます。創業者Aと共同創業者Bが1株1,000円で会社を設立し、その後シードラウンドとシリーズAで資金を調達したケースです(株価はすべて1株あたり、比率は小数点第2位を四捨五入しています)。

設立時シード後SO枠確保後
(完全希薄化後)
シリーズA後
(完全希薄化後)
創業者A9,000株(90.0%)9,000株(75.0%)9,000株(68.2%)9,000株(55.6%)
共同創業者B1,000株(10.0%)1,000株(8.3%)1,000株(7.6%)1,000株(6.2%)
シード投資家-2,000株(16.7%)2,000株(15.2%)2,000株(12.3%)
ストックオプション枠--1,200株(9.1%)1,200株(7.4%)
シリーズA投資家---3,000株(18.5%)
合計株式数10,000株12,000株13,200株16,200株
1株あたりの株価1,000円30,000円-100,000円
調達額(設立時は払込額)1,000万円6,000万円-3億円
プレマネー・バリュエーション-3億円-13.2億円
ポストマネー・バリュエーション-3.6億円-16.2億円

シードラウンドでは、調達前の企業価値(プレマネー・バリュエーション)を3億円として1株30,000円で2,000株を発行し、6,000万円を調達しています。その後、ストックオプションの枠として1,200株分を確保し、シリーズAでは完全希薄化後の株式数13,200株をもとにプレマネー・バリュエーションを13.2億円とし、1株100,000円で3,000株を発行して3億円を調達しています。

この例では、設立時に90.0%あった創業者Aの比率が、シリーズAの後には完全希薄化後で55.6%まで下がります。創業者が追加で出資しないまま新株の発行やストックオプションの行使が続けば、持株比率は通常下がっていくので、将来のラウンドまで含めて試算しておくことが大切です。

資本政策表の作り方

資本政策表は、次の順番で作ると考えやすいと思います。

①今の株主構成を書き出す:設立時の株主と株式数、すでに発行したストックオプションやJ-KISSなどの潜在株式を書き出します。J-KISSは株式に転換されたときの株式数を見込んでおきます。

②将来のラウンドを置く:事業計画をもとに、いつ、いくら必要になるかを考え、ラウンドごとの調達額と想定する企業価値を置きます。

③ストックオプションの枠を決める:採用計画にあわせて、どのタイミングでどれだけの枠を確保するかを決めます。

④出口から逆算して確認する:上場やM&Aの時点で、創業者がどれだけの比率を持っていたいかを決め、そこから逆算して無理がないかを確認します。

企業価値の見込みは、実際の交渉で変わるのが普通です。資本政策表は一度作って終わりではなく、ラウンドのたびに更新していくものと考えてください。

資本政策で失敗しやすいポイント

資本政策に一律の正解はありません。実際に上場した6社の資本政策を振り返った山岡佑氏の『実践スタートアップ・ファイナンス 資本政策の感想戦』(日経BP)を読むと、会社ごとに資本政策がまったく異なることがよく分かります。経営の主導権をどこまで持ち続けたいか、成長のスピードを優先して外部の資金や人材を積極的に取り込むか、上場とM&Aのどちらを目指すかなど、何を優先するかによって、維持したい持株比率も、取るべき資本政策も変わります。会社の事業や資金の状況によっても、最適な形は異なります。一方で、後から取り返しのつかない失敗には、いくつか典型的なパターンがあります。ここでは、そうした失敗しやすいポイントを紹介します。

創業初期に株式を渡しすぎる

よくあるのが、共同創業者や手伝ってくれた知人に、設立時にまとまった比率の株式を渡してしまうケースです。その人が途中で抜けた場合でも、株式は手元に残ります。共同創業者とは、途中で辞めた場合に株式を買い戻せる取り決め(創業者間契約)を、株式を渡す前に結んでおくことをおすすめします。

早い段階で低い株価のまま多く調達する

実績の少ない段階では企業価値が低く評価されやすいので、そこで大きな金額を集めると、多くの株式を渡すことになります。必要な資金をラウンドごとに分けて調達する、J-KISSのように株価の決定を先送りできる手段を使う、借入と組み合わせる、といった選択肢も検討しましょう。J-KISSについてはJ-KISSの仕組みとメリット・デメリットの記事で解説しています。

議決権の節目を意識していない

持株比率には、会社法上の節目があります。株主総会の普通決議は、原則として議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の過半数の賛成で成立します(取締役などの選任の決議には、会社法341条の特則があります)。定款変更や合併などの特別決議は、原則として同じ出席の要件のもとで、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。そのため、単独で特別決議を通せる「3分の2以上」、普通決議を通せる「過半数」、単独で特別決議を阻止できる「3分の1超」が目安になります。創業者がどの線を守りたいのかを意識して、資本政策を組み立てることが大切です。なお、定款の定めや種類株式の内容、投資家との事前承諾などの取り決めによっては、議決権の比率とは別に、重要な事項に投資家の同意が必要になる点にも注意してください。

ストックオプションの枠を考えていない

優秀な人材を採用するためにストックオプションを使う予定があるなら、その枠をあらかじめ資本政策に組み込んでおく必要があります。経済産業省のガイダンスでも、ストックオプションの発行割合を十分に検討し、VCから資金調達する場合はあらかじめ発行割合を定めるのが一般的とされています。ストックオプションの基本は税制適格ストックオプションの要件と課税関係の記事、発行のたびに株主総会を開かずに済む制度はストックオプション・プールの記事で解説しています。

税務面で見落としやすいポイント

株価の決め方によっては課税される

資本政策では、同じ時期に異なる株価で株式を渡すことがあります。このとき、役員や従業員がその地位や職務に関連して時価より有利な価格で株式を取得すると、原則として時価との差額が給与所得として課税されます(取得する人と会社との関係によって、所得の区分は変わります)。国税庁の通達では、時価との差がおおむね10%以上かどうかが「有利な価格」かどうかの目安とされていますが、非上場株式の時価は個別に検討が必要です。投資家が引き受けた価格と大きく離れた価格で株式を渡す場合は、その価格に合理的な根拠があるかを事前に確認しておきましょう。

資本金に組み入れる金額

資金調達で払い込まれた金額は、原則として資本金に計上しますが、払い込まれた額の2分の1までは資本金に組み入れず、資本準備金にすることができます。一般的な会社の場合、資本金が1億円を超えると、法人税の軽減税率(年800万円以下の所得に対する税率)や、交際費の年800万円までの定額控除といった中小法人向けの特例が使えなくなり、原則として法人事業税の外形標準課税の対象にもなります。大きな調達をする前に、資本金にいくら組み入れるかを決めておくことが大切です。資本金を1億円以下に抑える方法や、調達額が直前まで決まらないときの減資の進め方は資本金1億円の記事で解説しています。なお、資本金が1億円以下でも、資本金5億円以上の会社などに100%保有されている会社(間接的な保有なども含みます)は、法人税の中小法人向け特例を使えません。また、発行済株式の2分の1以上を同じ大きな会社(資本金1億円超の会社など)が持っている場合や、3分の2以上を複数の大きな会社が持っている場合は、いわゆる「みなし大企業」として、租税特別措置法の中小企業向けの税額控除や特別償却の多くが使えなくなります。事業会社から大きな出資を受ける場合や、VCファンドなどを通じた出資が多い場合は、出資者の構成と使う予定の制度ごとに確認しておきましょう。また、令和6年度税制改正により、一度外形標準課税の対象になった会社が、減資で資本金を1億円以下にしても、払込資本(資本金と資本剰余金の合計)が10億円を超えている場合などは、引き続き対象になるよう見直されました(令和7年4月1日以後に開始する事業年度から)。調達で資本金が1億円を超えてしまってから、後で減資して戻せばよい、とはいかない場合があるので、やはり調達の前に組み入れ額を決めておくことが大切です。

個人投資家にはエンジェル税制が使える場合がある

エンジェル投資家から出資を受ける場合、会社が要件を満たしていれば、投資家はエンジェル税制の優遇を受けられます。投資家にとってのメリットになるので、資金調達の前に自社が対象になるかを確認しておくとよいと思います。詳しくはエンジェル税制の記事をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

資本政策はいつから考えればよいですか?

会社を設立する前、遅くとも最初に外部の人へ株式を渡す前から考えておくのが理想です。設立時の株主構成が、その後のすべてのラウンドの出発点になるためです。

創業者はどれくらいの持株比率を残すべきですか?

一律の正解はありませんが、議決権の節目(3分の2以上、過半数、3分の1超)を基準に、どこまでなら下がってもよいかを決めておくのが現実的です。上場やM&Aまでを見据えて、ラウンドごとの比率を試算しておきましょう。

資本政策表はどんな形式で作ればよいですか?

表計算ソフトで十分です。ラウンドを列に、株主を行に並べ、株式数・持株比率・完全希薄化後の比率を計算できるようにしておくと、ラウンドの条件を変えたときの影響をすぐに確認できます。

まとめ

資本政策は、株式を誰に、いつ、どれだけ渡し、いくら調達するかの計画です。株式の発行は後からやり直すのが難しいため、最初に株式を渡す前から、将来のラウンドや出口まで見据えて考えることが大切です。

資本政策表で、ラウンドごとの持株比率を完全希薄化後まで含めて試算し、議決権の節目やストックオプションの枠を意識しながら組み立てましょう。株価の決め方や資本金への組み入れなど、税務面の確認も欠かせません。資本政策や資金調達に伴う税務について確認したい場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。

参考

この記事を書いた人

有村 啓史

有村 啓史事務所代表/公認会計士・税理士

慶應大学在学中に公認会計士に合格し、Big4の一つであるKPMGあずさ監査法人に新卒で入所。複数の上場企業の会計監査、内部統制監査に従事した後、2016年より米国のUCLAにMBA留学を行う。帰国後は日本マイクロソフト株式会社にBtoBマーケターとしてビジネスサイドの経験を積み、2021年にバイオベンチャーに入社し、CFOとしてIPO準備や資金調達業務などを経験した後、独立開業。不動産関連企業の監査役も務めている。

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