ストックオプション・プール制度とは?要件と確認申請の流れを解説

ストックオプション・プール制度とは?
要件と確認申請の流れを解説
採用のたびにストックオプションを出したいのに、そのたびに株主総会を開くのは大変です。そう感じているスタートアップの経営者は多いと思います。2024年9月に、こうした負担を軽くする「ストックオプション・プール」と呼ばれる制度ができました。
この制度を使うと、株主総会であらかじめ発行数の上限などを決めておけば、その範囲で取締役会が機動的にストックオプションを発行できるようになります(取締役会を置いていない会社では取締役。以下、まとめて「取締役会」と書きます)。一方で、経済産業大臣と法務大臣の確認を受ける必要があり、準備には時間がかかります。本記事では、ストックオプション・プールの仕組み、対象となる会社の要件、手続きの流れ、税制適格ストックオプションとの関係を解説します。ストックオプションの基本は税制適格ストックオプションの要件と課税関係の記事をご覧ください。
なお、実務で「ストックオプション・プール」というと、資本政策の中で、将来の付与のためにあらかじめ確保しておく発行枠(例えば発行済株式の10%など)を指すのが一般的です。本記事で解説するのは、経済産業省が「ストックオプション・プール」と呼んでいる、株主総会で決めた枠の範囲内で取締役会が機動的に発行できるようにする法律上の制度(募集新株予約権の機動的な発行)です。発行枠の考え方は資本政策の記事で解説しています。
ストックオプション・プールとは?
制度の正式名称と根拠
ストックオプション・プールは、正式には「募集新株予約権の機動的な発行」に関する制度です。産業競争力強化法の改正(第21条の19)により会社法の特例として設けられ、2024年9月2日に施行されました。経済産業大臣と法務大臣の確認を受けた会社が、ストックオプションを柔軟かつ機動的に発行できるようにするものです。
通常の会社法では何が大変なのか
非公開会社がストックオプション(新株予約権)を発行するときは、原則として募集事項を株主総会で決めます。株主総会の決議で取締役会に決定を任せることもできますが、次の2つの制約があります。
- 任せられる範囲が狭い:新株予約権の内容(行使価額や行使期間を含む)と数の上限は、株主総会で決める必要があります。
- 任せられる期間が短い:委任の決議は、割当日が決議の日から1年以内の発行にしか使えません。
つまり、採用が続く会社では、1年ごとに株主総会を開き直したり、そのつど株価に合わせた行使価額を株主総会で決めたりする必要がありました。
特例で変わる2つのこと
経済産業大臣と法務大臣の確認を受けた会社では、次の2点が変わります。
①取締役会に任せられる事項が増える:行使価額(株式を取得するときに払い込む金額)と行使期間(権利を使える期間)も、取締役会で決められるようになります。株主総会で決めておくのは、発行数の上限、無償か有償か(有償なら払込金額の下限)、行使価額と行使期間を除いた新株予約権の内容です。
②1年の期限がなくなる:通常の「割当日が委任の決議から1年以内」という制限がかからなくなります。ただし、この特例による発行は、割当日が会社の設立日から15年未満であることが必要です。決議の日からではなく、会社の設立日から数える点に注意してください(確認や委任の決議そのものに15年の有効期限が付くという意味ではありません)。
その結果、採用のたびに株主総会を開かなくても、取締役会の決定でストックオプションを付与できるようになります。採用で競争している段階のスタートアップにとっては、条件をそのつど提示しやすくなるという大きな利点があると思います。
対象となる会社の要件
確認を受けられるのは、主に次の要件をすべて満たす会社です。
- 株式会社で、設立の日から15年未満であること。
- 次の①〜④のいずれかに当たること。
- ①残余財産の分配について定めた種類株式を、現に発行している
- ②一定の事由が生じたときに会社が取得できる定め(普通株式への強制転換など)のある種類株式を、現に発行している
- ③会社と株主の間または株主どうしで、上場、一定の組織再編・事業譲渡、または株式の譲渡で特定の人が議決権の過半数を持つことになる場合(買収)に関する合意(上場等合意)があり、合意している株主の議決権の合計が3分の2以上である(買収時の対価の分け方を定める、いわゆるみなし清算の合意も、その一例です)
- ④投資事業有限責任組合(VCファンドなど)が株式や新株予約権を保有している
- 上の上場等合意とは別に、会社と株主の間または株主どうしで、ストックオプションを発行する条件などについて書面(または電磁的記録)で合意しており、合意している株主の議決権の合計が3分の2以上であること。
- 付与する相手を、自社や子会社の役員・従業員、自社に役務を提供する人(外部の協力者など)に限ること。
- 株主総会で委任の決議をする際に、この特例による委任であることを取締役が説明すること。
VCから優先株式で資金を調達している会社であれば、①の種類株式の要件に当たることが多いと思います。経済産業省も、①のパターンでの申請を推奨しています。種類株式の定めが定款にあるだけでは足りず、その種類株式を実際に発行していることが必要です。
手続きの流れ
①事前相談(1か月以上)
まず経済産業省に事前相談を行います。確認申請書の下書き、登記事項証明書、要件を満たす根拠となる資料(株主名簿、株主間契約書など)を用意して、メールで相談します。弁護士や行政書士による代理も可能です。事前相談から正式に申請できるようになるまで、少なくとも1か月はかかるとされています。
②確認申請と両大臣の確認(原則1か月)
正式に確認申請をすると、経済産業大臣と法務大臣が要件を審査し、原則として申請から1か月以内に確認書が交付されます。事前相談と合わせると、全体で2か月程度以上を見込んでおくのが安全です。事前相談や書類の修正の状況によっては、さらに時間がかかることもあります。
③株主総会での決議
確認を受けたら、株主総会で取締役会への委任を決議します。決議は特別決議で行います。原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。定款で定足数について別の定めを置くこともできますが、引き下げる場合でも、議決権を行使できる株主の議決権の3分の1未満にはできません。発行数の上限などをここで決めます。種類株式を発行している会社では、種類株主総会の決議も必要になる場合があります。
④取締役会での決定と割当
その後は、株主総会で決めた範囲内で、取締役会が発行数・行使価額・行使期間・割当日などを決め、ストックオプションを割り当てます。発行の登記では、通常の書類に加えて両大臣の確認書を提出します。
また、委任の決議をした会社は、その旨を、これから株主や新株予約権者になろうとする人に通知する必要があります。インターネットで誰でも見られる状態にしておく方法も認められています。
税制適格ストックオプションとの関係
この制度で発行したストックオプションでも、税制適格の要件を満たしていれば、ストックオプション税制を使えます。逆に、制度の確認を受けたからといって、自動的に税制適格になるわけではありません。
特に注意したいのは、取締役会が行使価額を決めるようになる点です。税制適格の要件には「行使価額が付与契約を結んだ時点の株価以上であること」があります。取締役会で行使価額を決める場合も、実際に付与契約を結ぶ時点の株価を基準に、この要件を満たすように設計する必要があります。株価の算定はセーフハーバールールと株価算定の記事、年間に行使できる金額の上限は年間権利行使価額の上限の記事で解説しています。
利用する前の注意点
設立15年を過ぎると使えない
確認そのものに有効期限はありませんが、割当日の時点で設立から15年未満である必要があります。設立15年に達した日以後を割当日とすることはできません。
投資契約の事前承諾は別に必要
この制度を使っても、投資契約や株主間契約で「新株予約権の発行には投資家の承諾が必要」と定めている場合、その承諾が不要になるわけではありません。また、そもそもこの制度では、ストックオプションの発行条件などについて、議決権の合計が3分の2以上になる株主とあらかじめ合意しておくことが要件になっています。VCから出資を受けている会社では、その合意に投資家も加わることが多いと思います。
発行の枠は既存株主の持分にかかわる
ストックオプションは、行使されると既存株主の持株比率が下がります。経済産業省のガイダンスでも、発行済株式の何%までをストックオプションに充てるかを十分に検討し、VCから資金調達する場合はあらかじめ発行割合を定めるのが一般的とされています。株主総会で決める上限の数は、資本政策全体の中で決めましょう。
よくある質問(FAQ)
種類株式を発行していなくても使えますか?
使える場合があります。上場や買収などに関する合意(上場等合意)をしている株主の議決権が3分の2以上ある場合や、投資事業有限責任組合が株式や新株予約権を保有している場合も対象になります。ただし、手続きの面では、残余財産の分配について定めた種類株式を発行しているパターンが推奨されています。
社外のアドバイザーにも付与できますか?
自社に役務を提供する人であれば、付与の対象になります。ただし、税制適格ストックオプションとして付与できる社外の人材は、一定の要件を満たす社外高度人材に限られるので、税制適格にしたい場合は別に確認が必要です。
一度確認を受ければ、いつまでも使えますか?
確認に有効期限はありません。ただし、設立15年未満であることなどの要件は、発行のたびに満たしている必要があります。
まとめ
ストックオプション・プールは、経済産業大臣と法務大臣の確認を受けることで、株主総会で決めた上限の範囲内で、取締役会が行使価額や行使期間も含めてストックオプションを機動的に発行できるようにする制度です。通常の1年の制限がなく、設立から15年未満の間は使えるため、採用が続くスタートアップにとっては使い勝手のよい制度だと思います。
一方で、事前相談と確認には全体で2か月程度以上を見込む必要があり、発行条件などについて、議決権の合計が3分の2以上になる株主との合意も必要です。税制適格の要件も別に満たさなければなりません。次の資金調達や採用計画にあわせて、早めに準備を始めることをおすすめします。ストックオプションの設計について確認したい場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。




