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有償ストックオプションとは?税制適格・信託型との違いを解説

有償ストックオプションとは?

税制適格・信託型との違い

スタートアップがストックオプションを設計するとき、まず検討されるのが税制適格ストックオプションです。ただ、税制適格には「無償で付与すること」をはじめ多くの要件があり、会社の状況や付与したい相手によっては使いにくいこともあります。そこで選択肢になるのが、役員や従業員が時価を払って取得する有償ストックオプションです。

本記事では、有償ストックオプションの仕組みと課税関係、税制適格ストックオプションや信託型ストックオプションとの違い、導入するときの注意点を、公認会計士・税理士の立場から解説します。税制適格ストックオプションの基本は税制適格ストックオプションの要件と課税関係の記事をご覧ください。

有償ストックオプションとは?

時価を払って取得するストックオプション

有償ストックオプションとは、役員や従業員が、新株予約権そのものの時価(公正な価値)に相当する金額を会社に払い込んで取得するストックオプションです。通常のストックオプションは会社から無償で付与されますが、有償ストックオプションは本人がお金を払って「買う」点が大きく異なります。

業績条件を付けて設計されることが多い

有償ストックオプションには、「一定の売上や利益を達成した場合に限って行使できる」といった業績条件を付けることが多くあります。条件の内容や評価の方法によっては、新株予約権の評価額が低くなり、役員や従業員が払い込む金額を抑えられる場合があるためです(必ず下がるわけではありません)。払込額は新株予約権の時価として、オプションの価格算定モデルなどを使って合理的に算定する必要があります。専門性が高いため、外部の評価機関に算定を依頼することもあります。

有償ストックオプションの課税関係

取得時と権利行使時には課税されない

国税庁のストックオプションQ&Aでは、役員や従業員がストックオプションを適正な時価で購入した場合、取得したときには経済的な利益がないので課税関係は生じず、権利を行使したときの値上がり益も所得税法上は認識しない、とされています。つまり、適正な時価で取得していれば、権利行使の時点では課税されません。

株式を売却したときに譲渡所得として課税される

課税されるのは、権利行使で取得した株式を売却したときです。このときの利益は株式の譲渡所得として課税されます。利益は、売却価額から「ストックオプションの購入価額」と「権利行使価額」の合計を差し引いて計算します。

国税庁のQ&Aでは、次のような例が示されています。ストックオプションを50で購入し、権利行使価額200で株式を取得し、その株式を1,000で売却した場合、株式の譲渡益は1,000-(50+200)=750になります。

払込額が時価より低いと扱いが変わる

注意したいのは、払込額が時価より低い場合です。国税庁のQ&Aは、適正な時価で購入する「有償型」と、「無償・有利発行型」を別のものとして扱っています。無償や時価より低い価額で取得した税制非適格ストックオプションは、譲渡制限があって付与の時点では利益を実現できない場合、付与時には課税されず、権利を行使したときの経済的な利益が課税されます。所得の区分は、雇用契約やこれに類する関係に基づいて付与された場合は原則として給与所得で、請負契約などに基づく場合は事業所得や雑所得になります(個別の事情によっては、役員や従業員でも雑所得になる場合があります)。有償ストックオプションのメリットは、払込額が適正な時価であることが前提なので、時価の算定は慎重に行う必要があります。

税制適格・税制非適格・信託型との違い

4つの類型の比較

ストックオプションの主な類型を、課税のタイミングで比べると次のとおりです(税制非適格ストックオプションは、勤務先から付与された譲渡制限付きのものを前提にしています)。

取得・付与時権利行使時株式売却時主な特徴
有償ストックオプション(適正な時価で取得)本人が時価を払い込む(課税なし)課税なし譲渡所得(売却価額-購入価額-権利行使価額)税制適格の要件に縛られない。本人の払込みが必要
税制適格ストックオプション課税なし課税なし(売却時まで繰延べ)譲渡所得(売却価額-権利行使価額)無償付与、年間の行使額の上限など多くの要件がある
税制非適格ストックオプション(無償・有利発行、譲渡制限付き)課税なし勤務先から労務の対価として付与されたものは原則として給与所得(関係により事業所得・雑所得の場合あり)譲渡所得(売却価額-権利行使時の株価)行使時に税金の負担が生じる
信託型ストックオプション(税制非適格)役員・従業員への付与時は課税なし給与所得(発行会社に源泉徴収の義務)譲渡所得(売却価額-権利行使時の株価)2023年5月の国税庁の見解で、行使時の給与課税が明確に

税制適格ストックオプションとの違い

税制適格ストックオプションは、権利行使時に課税されず、売却時に譲渡所得として課税される点で、有償ストックオプションと似ています。ただし、税制適格になるには、無償で付与すること、権利行使価額が付与契約の時点の株価以上であること、年間の権利行使価額に上限があることなど、多くの要件を満たす必要があります。

有償ストックオプションは本人が払い込んで取得するため、そもそも無償付与の要件を満たさず、税制適格にはなりません。その一方で、税制適格の要件に合わせて設計する必要がないため、付与の条件を比較的自由に決められます。税制適格の年間の行使額の上限は年間権利行使価額の上限の記事、権利行使価額の決め方はセーフハーバールールと株価算定の記事で解説しています。

従来型の信託型ストックオプションは使いにくくなった

信託型ストックオプションは、会社が信託を通じてストックオプションを確保しておき、後から貢献した役員や従業員に分配する仕組みです。以前は、権利行使時に課税されないと考えられて広く使われていました。

しかし、国税庁は2023年5月に公表したストックオプションQ&Aで、税制非適格の信託型ストックオプションについて、役員や従業員が権利を行使したときの経済的な利益は給与所得として課税されるという見解を示しました。実質的には会社が役員や従業員にストックオプションを付与しており、役員や従業員に金銭などの負担がないためです。発行会社には給与所得として源泉徴収する義務があり、すでに行使された分で納付していないものは、速やかに納付する必要があるとされています。

なお、信託型でも一定の要件を満たせば税制適格になり得るとされています。ただ、行使時に課税されないことを前提に設計されてきた税制非適格の信託型は、前提が崩れました。今から新しく導入するのであれば、まずは税制適格ストックオプションと有償ストックオプションを比べて設計を考えるのが現実的だと思います。

有償ストックオプションのメリット・デメリット

メリット

①権利行使時に課税されない:適正な時価で取得していれば、課税は株式を売却したときの譲渡所得だけです。行使のために多額の税金を用意する必要がありません。

②税制適格の要件に縛られない:無償付与や年間の行使額の上限など、税制適格の要件に合わせる必要がないため、付与の対象や条件を比較的柔軟に設計できます。

デメリット

①役員や従業員がお金を払う必要がある:払込額は本人の負担です。業績条件を達成できずに権利が失効した場合、発行条件で払込額を返さない設計になっていれば、本人は払い込んだ金額を失います。返還の有無は発行条件で確認が必要です。

②時価の算定に手間と費用がかかる:払込額が適正な時価でなければ、課税上のメリットが失われるおそれがあります。外部の評価機関に依頼する場合は、その費用もかかります。

③会計上は費用計上の検討が必要になる:次の項目で説明するとおり、払込みを受けていても、会計上は費用が生じる場合があります。

会計処理の注意点

会計の面では、企業会計基準委員会の実務対応報告第36号に扱いが定められています。ポイントは次の3つです。

  • ①有償でも、原則としてストック・オプションとして会計処理する:勤務条件や業績条件が付いた有償新株予約権は、払込額が時価に基づいていても報酬としての性格があるため、原則としてストック・オプションとして扱います(労働などの対価ではないことを会社が示せる場合は除きます)。
  • ②費用になるのは「評価額と払込額の差額」:新株予約権の公正な評価額から払込額を差し引いた金額をもとに、費用を計算します。払込額が公正な評価額と同じなら差額はなく、最初は費用が出ません。
  • ③後から費用が出ることがある:条件を満たせずに失効すると見込まれる数が変わったときなどに、後から費用が生じることがあります。

なお、未公開企業は会計上、より簡単な方法(株式の評価額と行使価格の差額=本源的価値を使う方法)も選べます。ただし、これは会計の話で、税務上の「適正な時価」とは別に考える必要があります。

「お金を払ってもらうのだから費用はかからない」と考えてしまいがちですが、条件によっては費用が生じます。上場を目指す会社では、監査法人とも事前に相談しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

有償ストックオプションを税制適格にすることはできますか?

できません。税制適格ストックオプションは、会社の取締役などに無償で付与されたものであることが要件なので、本人が払い込んで取得する有償ストックオプションは対象になりません。

払込額はどのように決めればよいですか?

新株予約権の時価として、オプションの価格算定モデルなどを使って合理的に算定する必要があります。行使条件や業績条件の内容も評価に影響することがあります。専門性が高いため、外部の評価機関に依頼することもあります。

信託型ストックオプションをすでに導入している場合はどうすればよいですか?

国税庁の見解に沿うと、役員や従業員が行使する税制非適格の信託型ストックオプションは、権利行使時に給与所得として課税され、発行会社に源泉徴収の義務があります。行使の予定や、すでに行使された分の扱いを含めて、早めに専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

有償ストックオプションは、役員や従業員が時価を払って取得するストックオプションです。適正な時価で取得していれば、権利行使時には課税されず、株式を売却したときに譲渡所得として課税されます。税制適格の要件に縛られないため柔軟に設計できる一方で、本人の払込みが必要で、時価の算定や会計上の費用計上にも注意が必要です。

税制非適格の信託型ストックオプションは国税庁の見解によって前提が崩れたため、今から設計するなら、税制適格ストックオプションと有償ストックオプションを比べて、会社と役員・従業員の状況に合う方を選ぶのが現実的だと思います。ストックオプションの設計や課税関係について確認したい場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。

参考

この記事を書いた人

有村 啓史

有村 啓史事務所代表/公認会計士・税理士

慶應大学在学中に公認会計士に合格し、Big4の一つであるKPMGあずさ監査法人に新卒で入所。複数の上場企業の会計監査、内部統制監査に従事した後、2016年より米国のUCLAにMBA留学を行う。帰国後は日本マイクロソフト株式会社にBtoBマーケターとしてビジネスサイドの経験を積み、2021年にバイオベンチャーに入社し、CFOとしてIPO準備や資金調達業務などを経験した後、独立開業。不動産関連企業の監査役も務めている。

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