「ものづくり補助金」や「中小企業新事業進出補助金」の活用を検討していたところ、公式サイトで急に見慣れない名前の補助金に切り替わっていて戸惑った方もいらっしゃるのではないでしょうか。実はこの2つの補助金は2026年6月29日、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」という新しい制度に切り替わりました。本記事では、旧2制度との関係から新制度の3つの申請枠、補助率・補助上限額、対象者の要件、申請スケジュールまでを整理して解説します。
※本記事は2026年9月14日時点の情報に基づき、2026年8月14日改訂の「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回・1.2版)」を参照して更新しています。電子申請の受付は2026年9月30日(水)に始まります(後述のスケジュールをご参照ください)。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金とは?
旧「ものづくり補助金」「新事業進出補助金」との関係
これまで別々に運用されていた「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(通称:ものづくり補助金)」と「中小企業新事業進出補助金」は、それぞれ2026年6月末をもって公募が終了し、2026年6月29日に「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」として第1回公募がスタートしました。事務局は独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)です。
なお、新制度の公式サイトでは「中小企業新事業進出補助金とものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金とは異なる補助金です」と明記されており、制度上は旧2制度を法的に統合したものではなく、新設された別の補助金という位置づけです。一方で、支援の目的・対象事業の枠組みは旧2制度を色濃く引き継いでおり、過去にものづくり補助金・新事業進出補助金で採択取消や交付決定取消、納付命令の未対応などがあった事業者は、新制度でも引き続き対象外として扱われます。実務上は「後継制度」と捉えて差し支えありませんが、正式には別制度である点は押さえておきましょう。
制度の目的
中小企業等が行う、技術的革新性のある製品・サービスの開発や、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出、海外市場開拓(輸出)に向けた国内の輸出体制の強化を後押しすることで、企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上を図り、賃上げにつなげていくことを目的としています。
3つの申請枠の違い
新制度には「革新的新製品・サービス枠」「新事業進出枠」「グローバル枠」の3つの申請枠があります。旧ものづくり補助金は主に革新的新製品・サービス枠に、旧新事業進出補助金は新事業進出枠に、それぞれおおむね対応していると考えると分かりやすいです。
①革新的新製品・サービス枠
自社の技術力等を活かして新製品・新サービスを開発する取組を支援する枠です。単に機械装置やシステムを導入するだけで新製品・新サービスの開発を伴わないものや、既存の製品・サービスの改善にとどまるものは対象外となる点に注意が必要です。
②新事業進出枠
旧・中小企業新事業進出補助金に相当する枠で、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援します。ここでいう「新規性」は世の中における新規性(日本初・世界初等)ではなく、あくまで申請する事業者自身にとっての新規性である点がポイントです。単に既存製品の製造量を増やす、既存製品の製造方法を変更するだけといった取組は対象になりません。
③グローバル枠
海外市場開拓(輸出)に向けた、国内の輸出体制強化を支援する枠です。自社製品を活用して自発的に新たな海外販路を開拓する取組が対象で、取引先の意向によって行う事業(取引先主導の事業)は対象外です。3枠の中で唯一、補助率が中小企業者等一律2/3となっています。
補助率・補助上限額
補助上限額は、申請枠と常勤従業員数によって異なります。表の( )内は、後述する賃上げ特例の適用を受けた場合の金額です。
革新的新製品・サービス枠(補助下限額100万円)
| 従業員数 | 補助上限額 | 補助率 |
|---|---|---|
| 1〜5人 | 750万円 (賃上げ特例適用時850万円) | 中小企業者:1/2 (地域別最低賃金引上げ特例適用時2/3) 小規模企業者・小規模事業者・再生事業者:2/3 |
| 6〜20人 | 1,000万円 (同1,250万円) | |
| 21〜50人 | 1,500万円 (同2,500万円) | |
| 51人以上 | 2,500万円 (同3,500万円) |
新事業進出枠・グローバル枠(補助下限額750万円)
| 従業員数 | 補助上限額 | 補助率(新事業進出枠) | 補助率 (グローバル枠) |
|---|---|---|---|
| 1〜20人 | 2,500万円 (賃上げ特例適用時 3,000万円) | 中小企業者(小規模企業者等含む):1/2 (地域別最低賃金引上げ特例適用時2/3) | 一律 2/3 |
| 21〜50人 | 4,000万円 (同5,000万円) | ||
| 51〜100人 | 5,500万円 (同7,000万円) | ||
| 101人以上 | 7,000万円 (同9,000万円) |
補助対象経費の区分(機械装置・システム構築費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費)はおおむね3枠共通ですが、必須となる経費区分は枠によって異なります。
革新的新製品・サービス枠では機械装置・システム構築費が必須です。
新事業進出枠・グローバル枠では、機械装置・システム構築費または建物費のいずれかを含める必要があります。
海外旅費・通訳翻訳費はグローバル枠のみが対象です。
- 海外旅費:1回の渡航につき事業者3名まで(同行の専門家・通訳者は追加2名まで)。1人当たりの上限は、補助対象経費に補助率を掛けた補助金額で50万円(税抜)
- 通訳・翻訳費:税抜30万円が上限(翻訳は広告宣伝・販売促進に必要なものに限られ、契約書の翻訳は対象外)
実際に申請する際は、公募要領の該当ページで経費区分ごとの上限・要件を必ずご確認ください。
対象者となる中小企業者の要件
対象となるのは、日本国内に本社と補助事業の実施場所がある、中小企業等経営強化法上の「中小企業者」(資本金または常勤従業員数が業種ごとの基準以下の会社・個人事業主と、一定の組合等)、「小規模企業者・小規模事業者」、資本金10億円未満で一定の従業員数以下の「特定事業者」の一部、一定の要件を満たす特定非営利活動法人・農事組合法人です。また、中小企業等がリースで機械装置やシステムを導入する場合は、リース料から補助金相当分を減額することなどを条件に、リース会社との共同申請も認められています。業種によって資本金・従業員数の基準が異なりますので、詳細は公募要領でご確認いただくことをおすすめします。
次のような事業者は対象外となる点に注意が必要です。
- 発行済株式総数(または出資総額)の2分の1以上を同一の大企業が所有している、3分の2以上を大企業が所有しているなどの「みなし大企業」
- 社団法人・財団法人、医療法人、法人格のない任意団体など、中小企業者等の定義に当てはまらない法人・団体
- 応募申請時点で従業員数が0名の事業者
- 新規設立・創業後1年に満たない事業者(新事業進出枠に限る)
- 申請締切日から遡って16か月以内に、事業再構築補助金・旧新事業進出補助金・旧ものづくり補助金・本補助金のいずれかで採択された事業者(採択を辞退した場合を除く)や、申請締切日時点でこれらの補助事業を実施中の事業者
- 応募申請日から遡って過去3年間に、事業再構築補助金・旧新事業進出補助金・旧ものづくり補助金の交付決定を合計2回以上受けた事業者
- 旧・ものづくり補助金や旧・新事業進出補助金を含む過去の関連補助金で、採択取消・交付決定取消・返還未対応等がある事業者
満たすべき基本要件
申請にあたっては、補助事業終了後3〜5年の事業計画期間において、以下の要件を満たす計画を策定する必要があります。特に賃上げ要件・事業場内最賃水準要件は、目標が未達の場合に原則として一部または全額の返還が生じるため、実現可能な水準で計画することが重要です(付加価値額が増加しておらず、かつ企業全体として営業利益が赤字である場合〔賃上げ要件は事業計画期間の過半数の年度、事業場内最賃水準要件はその事業年度〕や、天災など事業者の責めによらない理由がある場合は、返還を求めない規定もあります)。
- 付加価値額要件:付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)の年平均成長率4.0%以上
- 賃上げ要件:一人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上(申請者自身で目標値を設定し、交付申請時までに全従業員または従業員代表者に表明することが必要。表明していなかった場合は交付決定取消・全額返還、目標値が未達成の場合は未達成率に応じた補助金の返還義務あり)
- 事業場内最賃水準要件:事業場内最低賃金を、地域別最低賃金より毎年30円以上高い水準に維持(未達成の場合、補助金交付額を事業計画期間の年数で除した額の返還義務あり)
- ワークライフバランス要件:次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を「両立支援のひろば」で公表していること
- 子育て等に関する職場環境整備の取組要件:ライフデザインサービスの活用、家事代行・ベビーシッターサービスの活用、既存制度の周知のいずれかに取り組むこと(くるみん認定等取得済みの場合は免除)
- 金融機関要件:金融機関から資金提供を受けて補助事業を実施する場合は、資金提供元の金融機関から事業計画の確認を受け、「金融機関による確認書」を提出すること(自己資金のみで実施する場合は不要)
賃上げ特例で補助上限額がさらに引き上げ
より踏み込んだ賃上げに取り組む事業者向けに、賃上げ特例が用意されています。通常の賃上げ要件(年平均成長率+3.5%)に加えてさらに+2.5%(合計+6.0%以上)、事業場内最賃水準要件も通常の+30円に加えてさらに+20円(合計+50円以上)を満たす計画を応募申請時に電子申請システムへ入力し、内容の妥当性が審査で認められた場合に、前述の補助上限額が引き上げられます(自動的に適用されるわけではありません)。ただし、要件未達の場合は補助金返還義務が生じるため、無理のない目標設定が大切です。また、次のいずれかに該当する場合は賃上げ特例を適用できません。
- 各申請枠の通常の補助上限額に達しない申請
- 革新的新製品・サービス枠で、後述の地域別最低賃金引上げ特例をあわせて申請する事業者
- 革新的新製品・サービス枠またはグローバル枠で申請する再生事業者
なお、革新的新製品・サービス枠の中小企業者と新事業進出枠の申請者には、この賃上げ特例とは別に「地域別最低賃金引上げ特例」(補助率を1/2から2/3へ引き上げるもの)もあります。ただし、革新的新製品・サービス枠の小規模企業者・小規模事業者・再生事業者やグローバル枠はもともと補助率2/3のため、この特例の対象にはなりません。
審査のポイントと加点項目
応募申請の内容は、外部有識者からなる審査委員会が書面で審査します。審査項目は、補助対象事業としての適格性、経営戦略との整合性、事業の実現可能性、新規事業の新市場性・高付加価値性(新事業進出枠のみ)、公的補助の必要性、政策面などです。
「足下の賃上げ」も評価される
事業の実現可能性の審査では、補助事業終了後の賃上げ計画に加えて、設備投資などの完了を待たずに行う「足下の賃上げ」も評価されます。応募申請時の直近の事業年度から基準年度(補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度)までの一人当たり給与支給総額の年平均成長率が、最低でも物価上昇率を上回る程度に達しない場合は審査で大幅に不利になるとされています。足下の賃上げは採択後、交付決定までに従業員への表明が必須で、実績もモニタリングの対象です。
口頭審査は申請者自身が対応
書面審査で一定の基準を満たした事業者の中から、必要に応じてオンライン(Zoom等)で15分程度の口頭審査が行われます。対応するのは法人代表者など申請事業者自身で、事業計画の作成支援者や経営コンサルタント、社外顧問などの対応・同席は認められません。対象になったのに受験しなかった場合は不採択です。受験日時の予約案内は電子申請が完了した事業者から順に届き、予約は先着順のため、申請が締切間際になると選べる日時が限られることがあります。
加点項目は17項目
次の項目を申請締切日時点で満たしている事業者は、審査で一定程度加点されます。2026年8月14日の公募要領改訂(1.2版)で、⑬技術情報管理認証制度、⑭成長加速マッチングサービス、⑮アトツギ甲子園の3項目が追記されました。
| 加点項目 | 主な条件 |
|---|---|
| ① パートナーシップ構築宣言 | ポータルサイトで、2026年1月1日更新のひな形を使った宣言を公表している |
| ② くるみん | トライくるみん・くるみん・プラチナくるみんのいずれかの認定を受けている |
| ③ えるぼし | えるぼし(1〜3段階)・プラチナえるぼしのいずれかの認定を受けている |
| ④ 健康経営優良法人 | 健康経営優良法人2026に認定されている |
| ⑤ 再生事業者 | 中小企業活性化協議会等の支援を受けて再生計画等を策定中、または申請締切日から遡って3年以内に成立等している |
| ⑥ 経営革新計画 | 申請締切日時点で有効な承認を受けている |
| ⑦ 事業継続力強化計画 | 申請締切日時点で有効な(連携)事業継続力強化計画の認定を受けている |
| ⑧ DX認定 | 申請締切日時点で有効なDX認定を受けている |
| ⑨ J-Startup | J-Startup・J-Startup地域版に選定されている |
| ⑩ 新規輸出1万者支援プログラム | ポータルサイトで登録が完了している(グローバル枠のみ) |
| ⑪ 日本の食輸出1万者支援プログラム | ポータルサイトで登録が完了している(グローバル枠のみ) |
| ⑫ 研究開発費・試験研究費の計上 | 申請締切の前期までに、会計上の研究開発費または税務上の試験研究費を所定の書類で計上している |
| ⑬ 技術情報管理認証制度 | 認証を取得している |
| ⑭ 成長加速マッチングサービス | 会員登録を行い、挑戦課題を登録している |
| ⑮ アトツギ甲子園 | ピッチ大会に出場した |
| ⑯ 地域別最低賃金引上げ | 2024年10月〜2025年9月に、2025年度改定後の地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員の30%以上の月が3か月以上ある |
| ⑰ 事業場内最低賃金引上げ | 2025年7月と応募申請直近月の事業場内最低賃金を比べて、63円以上引き上げている |
一方で、中小企業庁が所管する補助金(ものづくり補助金、デジタル化・AI導入補助金、持続化補助金、省力化投資補助金など)で賃上げに関する加点を受けて採択されたのに、その要件を達成できなかった場合は、事業化状況報告等で未達が報告されてから18か月の間、正当な理由がない限り本補助金の審査で大幅に減点されます。
申請方法とスケジュール(第1回)
- 公募開始(公募要領の公開):2026年6月29日(月)
- 電子申請の受付開始:2026年9月30日(水)
- 申請締切:2026年10月30日(金)18:00(厳守)
- 補助金交付候補者の採択発表:2027年1月頃(予定)
「公募開始」と「電子申請の受付開始」は別のタイミングです。公募要領は2026年6月29日から公開されていますが、電子申請を送信できるのは2026年9月30日からです。当初は8月31日〜9月30日に受け付ける予定でしたが、2026年7月17日に現在の日程へ変更されました。
申請前に準備しておくこと
- GビズIDプライムアカウントの取得:申請には必須で、発行までに1週間程度かかります。
- 事業計画の準備:事業計画は、事務局指定のフォーマットに入力して電子申請システムにアップロードする方式です。申請時に使う「応募申請画面インポート用フォーマット」は受付開始に合わせて公開予定ですが、内容を検討するための「補助事業計画検討用フォーマット」(2026年8月31日公開)と「応募申請ガイド」(同8月24日公開)はすでに事務局サイトで公開されています。受付開始前に内容を固めておくと手続きがスムーズです。
- 添付書類の準備:原則として直近3期分の決算書(3期分がない場合は今期までのすべての決算書)、労働者名簿の写し、収益事業を行っていることを説明する書類(法人は確定申告書別表一と法人事業概況説明書の控え)などが必要です。
- 申請者自身による申請:代理申請の機能はなく、申請者自身が内容を理解して申請する必要があります。事業計画の作成支援者がいる場合は、支援者名・支援内容・報酬(予定)額・契約期間の入力が必要で、入力漏れは不採択や採択取消の対象になります。
電子申請の入力には一般に数時間程度かかり、締切間際は申請の集中も予想されるため、余裕をもって手続きを始めることが推奨されています。
採択後の流れ
採択後は、事務局が行う補助金交付候補者向けのオンライン説明会に必ず参加する必要があり、参加しない場合は採択が無効になります。そのうえで、原則として採択発表日から遅くとも2か月後までに交付申請を行い(期限までに申請しないと採択取消)、交付決定を受けてから補助事業を実施します。補助事業実施期間は、革新的新製品・サービス枠が交付決定日から10か月以内(ただし採択発表日から12か月以内)、新事業進出枠・グローバル枠が交付決定日から14か月以内(同16か月以内)です。交付決定日より前に契約・発注した経費は補助対象になりませんので、設備の発注時期には注意しましょう。
まとめ
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、旧ものづくり補助金と旧新事業進出補助金の枠組みを引き継いで2026年に新設された補助金で、新製品・新サービスの開発、新市場への進出、輸出体制の強化を幅広く支援します。補助上限額が大きい一方で、賃上げ要件や事業場内最賃水準要件は未達時に補助金の返還が生じるため、無理のない事業計画を立てることが大切です。第1回の電子申請は2026年9月30日から10月30日18:00までです。加点項目の準備や添付書類の取得には時間がかかるものもあるため、早めに検討を始めましょう。
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参考
