アメリカは日本企業の駐在員が多い国の一つで、日米間の租税条約(日米租税条約)は2019年の改正議定書発効により、投資所得の源泉税を大きく軽減する内容に改められています。本記事では、アメリカ赴任者が押さえておきたい日米租税条約の特徴を整理します(租税条約・二重課税の全般的な考え方は租税条約と二重課税の解消方法を、海外赴任全体の確定申告の流れは海外赴任・駐在員の確定申告 完全ガイドをあわせてご覧ください)。

日米租税条約の特徴

アメリカの国内法では、外国人・外国法人が受け取る米国源泉の配当・利子・使用料等(FDAP所得。米国内の事業と実質的な関連のない所得)に対して、条約等による軽減がない限り、原則30%の源泉徴収が課されるのが基本ルールです。日米租税条約は、この源泉税を大きく軽減する内容になっており、投資所得に関して世界的にも軽減の程度が大きい条約として知られています。具体的には、使用料は2004年発効の現行条約から、利子は2019年発効の改正議定書から、それぞれ原則として源泉地国(この場合はアメリカ)では課税されない扱いとされています。

米国市民権・グリーンカードに基づく課税に要注意

多くの国が住所や滞在日数を基準に課税上の居住者を判定するのに対し、アメリカは市民権(citizenship-based taxation)や永住権(グリーンカード)の保有そのものを基準に、米国内に居住していなくても米国での申告義務を課すという、他国にはあまり見られない制度を採っています。米国市民や永住権保有者が日本に生活の本拠を移し、日本の居住者になった場合でも、米国側の確定申告義務(所得水準によっては提出不要な場合もあります)が残ることがあるため、日米いずれの立場に該当するかを早めに確認しておくことが重要です。

日米租税条約には、米国が自国の市民・居住者に対しては条約がない場合と概ね同様に課税できるとする、いわゆる「セービング・クローズ」(第1条4項)が置かれています。米国市民はこの留保の対象となるため、条約の振り分け規定(第4条)で日本居住者とされても、米国側の全世界所得課税・申告義務は原則として維持されます。

一方、米国市民ではないグリーンカード保有者はセービング・クローズが対象とする「市民」にあたらないため、市民とは異なる扱いになります。第4条の振り分け規定により日本居住者と扱われることを正式に選択(Form 8833の提出等)すれば、米国の所得税計算上は非居住外国人として扱われ、課税範囲が米国源泉所得等に限定されます。つまり、市民と違い、条約を使って米国の全世界所得課税から抜け出せる可能性があるという点が違いです。

ただし、この選択には代償もあります。過去15年のうち8年以上グリーンカードを保有している「長期居住者(long-term resident)」に該当する方がこの選択をすると、米国税法上は米国居住を終了した(みなし国外移住)ものとして扱われ、Form 8854の提出義務が生じるほか、一定の資産規模等の要件(過去5年の平均所得税額や純資産2百万ドル以上など)に該当する場合は、日本の国外転出時課税と似た「出国税」が課される可能性があります。長期のグリーンカード保有者がこの選択を検討する場合は、通常の非居住者への切り替えより影響が大きいため、必ず事前に日米双方の専門家に相談することをおすすめします。

配当・利子・使用料に対する源泉税率

日米租税条約では、配当・利子・使用料について、それぞれ源泉地国での課税に上限が設けられています。主な税率区分はおおむね次のとおりです(受益者の属性や保有割合等の要件を満たす場合の税率であり、要件を満たさない場合は異なる税率になることがあります)。

  • 配当:一般の配当は10%。受益者が法人で議決権を10%以上保有する場合は5%。議決権を50%以上・一定期間継続して保有するなど条約の要件を満たす親子会社間配当や、事業遂行から生じたものではない適格年金基金が受け取る配当は原則免税
  • 利子:条約の要件を満たす場合は原則免税(源泉地国では課税されない)。ただし、利益に連動する利子など一部は上限10%の課税が残ります
  • 使用料(特許権・著作権・ノウハウなどの使用の対価として支払われるロイヤルティ):原則免税(源泉地国では課税されない)

実際の適用税率は所得の種類・受取者の属性・保有割合などによって細かく分かれるため、該当する取引がある場合は条約の該当条文を確認するか、顧問税理士にご相談ください。なお、軽減・免除を受けるための手続は支払いの方向によって異なります。たとえば、日本の証券口座で日本株を保有したまま米国居住者になった場合、配当を支払うのは日本の企業・証券会社(日本の支払者)ですので、日本側の源泉税の軽減・免除を受けるには、受取人が「租税条約に関する届出書」を、その日本の支払者を経由して所轄税務署に提出することが原則として必要です。反対に、帰任後に日本居住者へ戻ってからも、赴任中に開設した米国の証券口座等から配当・利子を受け取り続ける場合は、米国側の源泉税の軽減・免除を受けるために、通常、米国の様式(Form W-8BENなど)をその米国の支払者(証券会社等)に提出する手続によります。

条約の特典を受けるための「適格居住者」要件(LOB条項)

日米租税条約には、条約の軽減・免除規定を不当に利用することを防ぐための「特典制限条項」(LOB条項:Limitation on Benefits)が置かれています。個人の居住者は通常この条約の特典を受けられるため、駐在員個人が給与や自身の投資所得についてこの条項で問題になることは通常ありません。この要件が主に問題になるのは、日本法人が米国から配当・利子・使用料を受け取るなど、法人としての取引で条約適用を検討する場面です(上場会社に該当するか、株主構成に関するテストを満たすかなど、法人向けにいくつかの判定ルートが用意されています)。

短期滞在者免税と恒久的施設(PE)

出張などでアメリカに短期間滞在する場合、日米租税条約の短期滞在者免税の規定(第14条2項)により、租税条約と二重課税の解消方法で解説した3要件と同様の内容(対象暦年に開始または終了するいずれの12か月の期間においても滞在が合計183日を超えないこと、報酬が米国居住者でない雇用者から支払われること、報酬が雇用者の米国内恒久的施設に負担されていないこと)を満たせば、アメリカでの課税を免れることができます。また、日本企業がアメリカ国内に恒久的施設(PE)を持つ場合、アメリカで課税されるのはそのPEに帰属する部分の事業利得であり、企業の事業所得全体が米国課税の対象になるわけではありません。PEの典型例は、支店や工場、事業活動を行う事務所などです(単に情報収集や広告宣伝など準備的・補助的な活動のみを行う駐在員事務所は、通常PEに該当しません)。駐在員の勤務実態がPEの認定に影響しないか、あわせて確認しておくと安心です。

よくある質問(FAQ)

Q. 日本国籍で米国のグリーンカードは持っていません。それでも注意が必要ですか?
A. 市民権・グリーンカードに基づく課税は、米国市民または永住権保有者が対象です。それ以外の方は、米国税法上の実質的滞在日数テスト(Substantial Presence Test)等にもとづいて米国での居住者・非居住者が判定されます。非居住者であっても、米国源泉所得や米国内の事業に関する所得については米国での納税・申告が必要になることがあります。

Q. 配当や利子の源泉税率は具体的に何%ですか?
A. 受取者の属性(個人か法人か、保有割合、年金基金に該当するかなど)によって適用される税率が異なるため、本記事では一律の税率を記載していません。該当する取引がある場合は、条約の該当条文または顧問税理士にご確認ください。

まとめ

日米租税条約は、配当・利子・使用料といった投資所得の源泉税を大きく軽減する内容になっている一方、米国市民権・グリーンカードに基づく課税という他国にはない制度があるため、アメリカ駐在員(および米国籍・永住権をお持ちの方)は、ご自身がどちらの国からどちらの国へ支払われる所得についてどの手続を使うのかを含め、個別に確認しておくことが大切です。租税条約・二重課税の全般的な考え方は租税条約と二重課税の解消方法で整理していますので、あわせてご確認ください。

海外赴任全体の確定申告の流れは海外赴任・駐在員の確定申告 完全ガイドで整理しています。アメリカ赴任に伴う確定申告について確認したい場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。

参考