海外赴任が決まると、住居や子どもの学校、現地での生活準備に追われがちですが、出国前に済ませておかないと、日本に残る家族や会社に手間をかけてしまう手続きがあります。その代表格が「納税管理人」の選任です。「納税管理人」という言葉を出国直前に初めて聞いたという方も少なくありません。本記事では、なぜ納税管理人が必要なのか、選任しないとどうなるのか、誰に頼めばよいのかを整理して解説します(海外赴任前後の確定申告全体の流れは海外赴任・駐在員の確定申告 完全ガイドもあわせてご覧ください)。

納税管理人とは?

納税管理人とは、非居住者となる本人に代わって、確定申告書の提出や税務署からの書類の受領、税金の納付・還付金の受け取りなどを行う代理人のことです。1年以上の予定で海外の支店等に転勤する場合、一般的には日本国内に住所を有しない者と推定され、所得税法上の「非居住者」として扱われます。非居住者になった後も国内で確定申告や納税・還付といった手続きが必要になる場合には、国内に納税管理人を置く必要が出てきます。

納税管理人になれるのは個人・法人のどちらでも構いません。家族に頼むケースが多いですが、頼れる家族がいない場合や実務負担を減らしたい場合は、税理士に依頼するという選択肢もあります。

納税管理人を選任しないとどうなる

「そこまで急ぎでもなさそうだから、出国後に落ち着いてから考えよう」と後回しにしてしまう方もいますが、納税管理人を選任しないまま出国すると、いくつかの不利益が生じます。

  • 確定申告書の提出期限が早まることがある:そもそも給与のみで年末調整により所得税の精算が完結する方には影響しませんが、不動産所得や資産の譲渡所得など申告義務がある方の場合、納税管理人を選任していれば翌年の通常の申告期限(原則3月15日)までに(居住者期間の所得と、出国後に生じた国内源泉所得を合算して)申告すればよいのに対し、選任していない場合は原則として出国の時までに、その時点での所得について申告(いわゆる準確定申告)を済ませる必要があります
  • 還付金の受け取りや税務署からの通知の確認が遅れる:国内に窓口となる人がいないため、書類のやり取りが滞りがちになります
  • 相続税・贈与税でも期限が早まる場合がある:申告期限が到来する前に国内に住所を有しなくなる(出国する)方が納税管理人を届け出ていない場合、原則として出国の日までに申告が必要になることがあります。すでに海外居住の状態で相続・贈与を受けた場合など、対象外となるケースもあります

「出国後に必要になったら考えればいい」というものではなく、出国前に選任しておくかどうかで、その年の申告スケジュールそのものが変わってしまう点を押さえておく必要があります。

海外赴任者(本人)が納税管理人を選任して確定申告の手続きを委任し、納税管理人が税務署への申告書提出や還付金・通知書の受領を代行して本人へ結果を報告する三者の関係を示す図

納税管理人は誰に頼める

納税管理人には特別な資格は必要なく、個人・法人のどちらでもなることができます。ただし、他人の求めに応じて業として税務相談に応じたり申告書を作成したりするには税理士資格が必要という制限(税理士法上の制限)があります。家族を納税管理人にする場合でも、申告内容の判断や申告書の作成自体は別途税理士に依頼するケースが一般的です。

  • 家族・親族に依頼する場合:日常的なやり取りがしやすい一方、申告内容の判断や書類作成は自分ではできないため、税理士への依頼と組み合わせる必要がある
  • 税理士に依頼する場合:納税管理人の役割と申告書作成の両方を一体で任せられるため、手続きが煩雑になりがちな非居住者の申告では安心感がある

また、家族を納税管理人にした場合、その家族が転居したり、対応が難しくなって辞任したりすると、改めて選任し直す手間が生じる点にも注意が必要です。

納税管理人の選任手続き

納税管理人を選任する際は、「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を、納税地を所轄する税務署長に提出します。届出書には、本人と納税管理人双方の氏名・住所等を記載します。提出方法は窓口への持参、郵送、e-Taxのいずれも可能です。

出国日が決まったら、引っ越しや保険の解約手続きと同じタイミングで、納税管理人の候補を決め、出国前に届出を済ませておくことをおすすめします。年末調整や住民税の精算など、出国前後には他にも確認すべき手続きが重なるため、余裕を持ったスケジュールで進めましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 納税管理人は途中で変更できますか?
A. 変更可能です。新しい納税管理人について改めて選任の届出を行うとともに、必要に応じて解任の届出も行います。

Q. 納税管理人がいないまま出国してしまいました。今からでも選任できますか?
A. 出国後でも選任・届出自体は可能です。ただし、届出をしても既に到来している申告期限が延びるわけではないため、期限を過ぎてしまっている場合は速やかに必要な申告を済ませることが優先されます。心当たりがある場合は早めに専門家にご相談ください。

Q. 納税管理人を選任すれば、e-Taxは使えなくなりますか?
A. 納税管理人を選任していても、本人が利用者識別番号を取得し、電子証明書等の本人確認手段や利用環境を整えれば、海外からe-Taxを利用することは可能です。実務上は、納税管理人への委任とe-Taxの活用を組み合わせて手続きを進めるケースもあります。

まとめ

海外赴任前の納税管理人の選任は、その後の確定申告のスケジュールや手間を大きく左右する、出国準備の中でも優先度の高い手続きです。「誰に頼むか」「いつまでに届出をするか」を早めに決めておくことで、赴任中も帰任後も慌てずに手続きを進められます。

出国前・赴任中・帰任後を通じた確定申告の全体像は海外赴任・駐在員の確定申告 完全ガイドで整理していますので、あわせてご確認ください。ご自身のケースで納税管理人を誰に頼むべきか、申告書の作成まで任せられる専門家を探しているという場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。

参考