
シンガポール駐在員が
知っておきたい日星租税条約
シンガポールは日本企業の駐在員が多い国の一つで、日本との間には租税条約(日星租税条約)が締結されています。本記事では、シンガポール赴任者が押さえておきたい日星租税条約の基本的なポイントを整理します(租税条約・二重課税の全般的な考え方は租税条約と二重課税の解消方法を、海外赴任全体の確定申告の流れは海外赴任・駐在員の確定申告 完全ガイドをあわせてご覧ください)。
日星(日本・シンガポール)租税条約とは
日星租税条約は、日本とシンガポールの間で二重課税を回避し、脱税を防止することを目的として締結されている条約です。居住者の判定基準、短期滞在者免税、配当・利子・使用料に対する源泉税率の軽減など、駐在員や企業の実務に関わる規定が含まれています。条約の正確な条文・適用関係は財務省・国税庁のウェブサイトで公開されていますので、実務上の適用にあたっては最新の条文を確認することをおすすめします。
シンガポールの個人所得税の基本的な仕組み
シンガポールの個人所得税は、日本とはいくつかの点で制度が異なります。
- 居住者・非居住者の判定:一般的に、その年に183日以上シンガポールに滞在した場合などに税務上の居住者と扱われ、居住者には累進税率が適用されます。非居住者の給与所得には、居住者として計算した税額と一定の税率で計算した税額のいずれか高い方が適用されるなど、日本とは異なる仕組みが採られています
- キャピタルゲイン課税:シンガポールには、そもそも個人のキャピタルゲイン(株式譲渡益等)を対象とする独立した課税制度がありません。ただし、その利益が資本的利益ではなく取引・事業から生じた収益的利益と認定される場合は所得税の課税対象となり得ます。この判定は売買頻度だけでなく、保有期間・取得や売却の目的・資金調達方法などを踏まえた総合判断になる点に注意が必要です
具体的な税率や計算方法は制度改正により変わることがあるため、最新の情報はシンガポール内国歳入庁(IRAS)や現地の税務専門家に確認することをおすすめします。
短期滞在者免税の具体的な要件
出張などでシンガポールに短期間滞在する場合、日星租税条約の短期滞在者免税の規定(第15条2項)により、次の3要件をすべて満たせばシンガポールでの課税を免れることができます。
- 継続するいかなる12か月の期間においても、シンガポールでの滞在が合計183日を超えないこと
- 報酬が、シンガポールの居住者ではない雇用者から、またはその雇用者に代わって支払われること
- 報酬が、雇用者がシンガポール国内に有する恒久的施設によって負担されていないこと
単に「駐在期間が短い」というだけでは足りず、給与の支払元や負担元によっては免税の対象外になる点に注意が必要です(たとえば、シンガポール法人へ出向し、給与をシンガポール法人が負担している場合など)。ここでいう「恒久的施設(PE)」の典型例は、支店や工場、事業活動を行う事務所などです(単に情報収集や広告宣伝など準備的・補助的な活動のみを行う駐在員事務所は、通常PEに該当しません)。なお、シンガポールの国内法には、これとは別に一定の短期雇用(60日以下)についての免税制度もあります。
配当・利子・使用料に対する源泉税率の軽減
日星租税条約では、配当・利子・使用料(特許権・著作権・ノウハウなどの使用の対価として支払われるロイヤルティ)についても、それぞれ源泉地国での課税に一定の上限税率(軽減税率)が設けられています(なお、シンガポールでは現行の国内法上、通常は配当に源泉税が課されていないため、条約上限が常に実際の税負担軽減につながるとは限りません)。日本から支払われる配当・利子・使用料についてシンガポール居住者がこの軽減税率の適用を受ける場合は、「租税条約に関する届出書」を、支払者(日本の会社等)を経由して所轄税務署に提出することが原則として必要です(シンガポール源泉所得についてシンガポール側で条約適用を受ける場合は、IRAS所定の手続によります)。具体的な税率は所得の種類や取引形態によって異なりますので、該当する取引がある場合は条約の該当条文を確認するか、顧問税理士にご相談ください。
株式譲渡益と国外転出時課税制度との関係
シンガポールに個人のキャピタルゲイン課税がないことから、「シンガポールに移住すれば株式譲渡益が無税になる」と言われることがありますが、注意すべき点があります。出国時に保有する有価証券等の時価総額が合計1億円以上になるなど一定の要件に該当する場合、日本側で国外転出時課税制度の対象となり、出国時に含み益へみなし譲渡課税が生じることがあります(対象要件や納税猶予の仕組みについては株式・投資に関する記事で解説しています)。また、日本非居住者となった後の株式譲渡益についても、事業譲渡類似株式や不動産関連法人株式など一部の例外に該当する場合は日本での課税対象となることがあるため、あわせて確認しておくと安心です。
租税条約の適用を受けるための居住者証明書
租税条約の軽減税率の適用を受ける際には、その所得の受取人がシンガポールの居住者であることを証明する「居住者証明書」の提出を求められることがあります。シンガポールの居住者証明書はIRAS(シンガポール内国歳入庁)に申請して取得します。取得までに一定の期間を要することがあるため、取引の前に余裕を持って準備しておくとよいでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q. シンガポールに住めば日本の税金は一切かからなくなりますか?
A. いいえ。日本国内に源泉のある所得(国内の不動産所得など)は非居住者となった後も日本で課税対象になり得ますし、出国時の国外転出時課税制度の対象になることもあります。個々の所得ごとに課税関係を確認する必要があります。
Q. シンガポールの税率は実際どのくらい低いのですか?
A. 税率は制度改正により変動するため、本記事では具体的な税率の記載を控えています。最新の税率はIRAS(シンガポール内国歳入庁)の公式情報や現地の税務専門家でご確認ください。
まとめ
シンガポール駐在員は、日星租税条約による短期滞在者免税や源泉税率の軽減、シンガポール独自のキャピタルゲイン非課税といった特徴を踏まえつつ、日本側の国外転出時課税制度や国内源泉所得の課税関係も含めて確認しておくことが大切です。租税条約・二重課税の全般的な考え方は租税条約と二重課税の解消方法で整理していますので、あわせてご確認ください。
海外赴任全体の確定申告の流れは海外赴任・駐在員の確定申告 完全ガイドで整理しています。シンガポール赴任に伴う確定申告について確認したい場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。