「ものづくり補助金」や「中小企業新事業進出補助金」の活用を検討していたところ、公式サイトで急に見慣れない名前の補助金に切り替わっていて戸惑った方もいらっしゃるのではないでしょうか。実はこの2つの補助金は2026年6月29日、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」という新しい制度に切り替わりました。本記事では、旧2制度との関係から新制度の3つの申請枠、補助率・補助上限額、対象者の要件、申請スケジュールまでを整理して解説します。

※本記事は2026年8月7日時点の情報に基づき、2026年7月公表の「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回・1.1版)」を参照して作成しています。この時点では電子申請の受付はまだ始まっていません(後述のスケジュールをご参照ください)。

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金とは?

旧「ものづくり補助金」「新事業進出補助金」との関係

これまで別々に運用されていた「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(通称:ものづくり補助金)」と「中小企業新事業進出補助金」は、それぞれ2026年6月末をもって公募が終了し、2026年6月29日に「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」として第1回公募がスタートしました。事務局は独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)です。

なお、新制度の公式サイトでは「中小企業新事業進出補助金とものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金とは異なる補助金です」と明記されており、制度上は旧2制度を法的に統合したものではなく、新設された別の補助金という位置づけです。一方で、支援の目的・対象事業の枠組みは旧2制度を色濃く引き継いでおり、過去にものづくり補助金・新事業進出補助金で採択取消や交付決定取消、納付命令の未対応などがあった事業者は、新制度でも引き続き対象外として扱われます。実務上は「後継制度」と捉えて差し支えありませんが、正式には別制度である点は押さえておきましょう。

制度の目的

中小企業等が行う、技術的革新性のある製品・サービスの開発や、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出海外市場開拓(輸出)に向けた国内の輸出体制の強化を後押しすることで、企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上を図り、賃上げにつなげていくことを目的としています。

3つの申請枠の違い

新制度には「革新的新製品・サービス枠」「新事業進出枠」「グローバル枠」の3つの申請枠があります。旧ものづくり補助金は主に革新的新製品・サービス枠に、旧新事業進出補助金は新事業進出枠に、それぞれおおむね対応していると考えると分かりやすいです。

①革新的新製品・サービス枠

自社の技術力等を活かして新製品・新サービスを開発する取組を支援する枠です。単に機械装置やシステムを導入するだけで新製品・新サービスの開発を伴わないものや、既存の製品・サービスの改善にとどまるものは対象外となる点に注意が必要です。

②新事業進出枠

旧・中小企業新事業進出補助金に相当する枠で、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援します。ここでいう「新規性」は世の中における新規性(日本初・世界初等)ではなく、あくまで申請する事業者自身にとっての新規性である点がポイントです。単に既存製品の製造量を増やす、既存製品の製造方法を変更するだけといった取組は対象になりません。

③グローバル枠

海外市場開拓(輸出)に向けた、国内の輸出体制強化を支援する枠です。自社製品を活用して自発的に新たな海外販路を開拓する取組が対象で、取引先の意向によって行う事業(取引先主導の事業)は対象外です。3枠の中で唯一、補助率が中小企業者等一律2/3となっています。

補助率・補助上限額

補助上限額は、申請枠と常勤従業員数によって異なります。表の( )内は、後述する賃上げ特例の適用を受けた場合の金額です。

革新的新製品・サービス枠(補助下限額100万円)

従業員数補助上限額補助率
1〜5人750万円
(賃上げ特例適用時850万円)
中小企業者:1/2
(地域別最低賃金引上げ特例適用時2/3)

小規模企業者・小規模事業者・再生事業者:2/3
6〜20人1,000万円
(同1,250万円)
21〜50人1,500万円
(同2,500万円)
51人以上2,500万円
(同3,500万円)

新事業進出枠・グローバル枠(補助下限額750万円)

従業員数補助上限額補助率(新事業進出枠)補助率
(グローバル枠)
1〜20人2,500万円
(賃上げ特例適用時
3,000万円)
中小企業者(小規模企業者等含む):1/2
(地域別最低賃金引上げ特例適用時2/3)
一律
2/3
21〜50人4,000万円
(同5,000万円)
51〜100人5,500万円
(同7,000万円)
101人以上7,000万円
(同9,000万円)

補助対象経費の区分(機械装置・システム構築費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費)はおおむね3枠共通ですが、必須となる経費区分は枠によって異なります。

革新的新製品・サービス枠では機械装置・システム構築費が必須です

新事業進出枠・グローバル枠では、機械装置・システム構築費または建物費のいずれかを含める必要があります

海外旅費・通訳翻訳費はグローバル枠のみが対象です。

  • 海外旅費:1回の渡航につき事業者3名まで(同行の専門家・通訳者は追加2名まで、1人当たり上限50万円)
  • 通訳・翻訳費:税抜30万円が上限(翻訳は広告宣伝・販売促進に必要なものに限られ、契約書の翻訳は対象外)

実際に申請する際は、公募要領の該当ページで経費区分ごとの上限・要件を必ずご確認ください。

対象者となる中小企業者の要件

対象となるのは、中小企業基本法上の「中小企業者」「小規模企業者・小規模事業者」、および資本金10億円未満で一定の従業員数以下の「特定事業者」の一部です。業種によって資本金・従業員数の基準が異なりますので、詳細は公募要領でご確認いただくことをおすすめします。

次のような事業者は対象外となる点に注意が必要です。

  • 発行済株式の過半数を大企業が保有しているなどの「みなし大企業」
  • 応募申請時点で従業員数が0名の事業者
  • 新規設立・創業後1年に満たない事業者(新事業進出枠に限る)
  • 旧・ものづくり補助金や旧・新事業進出補助金を含む過去の関連補助金で、採択取消・交付決定取消・返還未対応等がある事業者

満たすべき基本要件

申請にあたっては、補助事業終了後3〜5年の事業計画期間において、以下の要件を満たす計画を策定する必要があります。特に賃上げ要件・事業場内最賃水準要件は、目標が未達の場合に原則として一部または全額の返還が生じるため、実現可能な水準で計画することが重要です(赤字が続く場合や天災など事業者の責めに負わない事情がある場合の返還免除規定もあります)。

  • 付加価値額要件:付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)の年平均成長率4.0%以上
  • 賃上げ要件:一人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上(未達成の場合、未達成率に応じた補助金の返還義務あり)
  • 事業場内最賃水準要件:事業場内最低賃金を、地域別最低賃金より毎年30円以上高い水準に維持(未達成の場合、補助金交付額を事業計画期間の年数で除した額の返還義務あり)
  • ワークライフバランス要件:次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を「両立支援のひろば」で公表していること
  • 子育て等に関する職場環境整備の取組要件:ライフデザインサービスの活用、家事代行・ベビーシッターサービスの活用、既存制度の周知のいずれかに取り組むこと(くるみん認定等取得済みの場合は免除)

賃上げ特例で補助上限額がさらに引き上げ

より踏み込んだ賃上げに取り組む事業者向けに、賃上げ特例が用意されています。通常の賃上げ要件(年平均成長率+3.5%)に加えてさらに+2.5%(合計+6.0%以上)、事業場内最賃水準要件も通常の+30円に加えてさらに+20円(合計+50円以上)を満たす計画を応募申請時に電子申請システムへ入力し、内容の妥当性が審査で認められた場合に、前述の補助上限額が引き上げられます(自動的に適用されるわけではありません)。ただし、要件未達の場合は補助金返還義務が生じるため、無理のない目標設定が大切です。また、次のいずれかに該当する場合は賃上げ特例を適用できません。

  • 各申請枠の通常の補助上限額に達しない申請
  • 革新的新製品・サービス枠で、後述の地域別最低賃金引上げ特例をあわせて申請する事業者
  • 革新的新製品・サービス枠またはグローバル枠で申請する再生事業者

なお、革新的新製品・サービス枠の中小企業者と新事業進出枠の申請者には、この賃上げ特例とは別に「地域別最低賃金引上げ特例」(補助率を1/2から2/3へ引き上げるもの)もあります。ただし、革新的新製品・サービス枠の小規模企業者・小規模事業者・再生事業者やグローバル枠はもともと補助率2/3のため、この特例の対象にはなりません。

申請方法とスケジュール(第1回)

  • 公募開始(公募要領の公開):2026年6月29日(月)
  • 電子申請の受付開始:2026年9月30日(水)
  • 申請締切:2026年10月30日(金)18:00(厳守)
  • 補助金交付候補者の採択発表:2027年1月頃(予定)

「公募開始」と「電子申請の受付開始」は別のタイミングです。公募要領自体は2026年6月29日から公開されていますが、実際に電子申請を送信できるのは2026年9月30日からで、本記事執筆時点(2026年8月7日)ではまだ申請を送ることはできません。事業計画の検討や必要書類の準備は、受付開始前から進めておくことができます。