節税・税制優遇

役員賞与(事前確定届出給与)による社会保険料の削減法とは?注意点も解説

役員賞与のおすすめ利用法と注意点

役員報酬の種類

経費になる役員報酬は原則3種類

利益操作に利用されることを避けるため、役員報酬が経費として認められるためには一定のルールにのっとって支給される必要があります。具体的には、税法が定める「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3種類のうちどれかに該当する必要があります(役員の退職給与や、使用人兼務役員の使用人としての給与などは別の扱いです)。

定期同額給与:毎月同額の報酬を支払うイメージです(月50万円等)。

事前確定届出給与:役員に対する賞与のようなものですが、事前に支給時期と支給金額を定めたうえで税務署に届け出を行う必要があります。

業績連動給与:その名の通り業績に連動した報酬ですが、適用には様々な要件があり、中小の同族会社では要件を満たすことが難しく、主に上場会社などで使われる制度です。

そのため多くの中小企業(特に同族会社)では、実務上は定期同額給与と事前確定届出給与が中心になります。

毎月の役員報酬(定期同額給与)をいつまでに・いくらに決めるかについては、設立1期目の役員報酬の決め方の記事で解説しています。

役員賞与(事前確定届出給与)がなぜ節税手段として使われるのか

社会保険料負担を抑えることができる

役員賞与が節税手法として広く使われるのは、毎月の役員報酬(定期同額給与)の代わりに役員賞与を多く支給することで、社会保険料の金額を抑えることができるからです。社会保険料もいわば税金のようなものなので節税手段の一つとして扱われています。

下記が毎月の役員報酬と役員賞与の社会保険料の計算方法・上限の違いです。役員賞与における上限のほうが低いことがわかると思います。上限を超える金額については社会保険料がかからないことになるため役員賞与が利用されることになります。

<定期同額給与と事前確定届出給与の社会保険料の計算方法・上限の違い>※協会けんぽ東京支部で39歳以下の場合。健康保険料率は2026年3月分(4月納付分)から、子ども・子育て支援金は2026年4月分(5月納付分)から適用

定期同額給与
(毎月定額の役員報酬)
事前確定届出給与
(役員賞与)
健康保険料標準報酬月額の9.85%
※標準報酬月額の上限は月139万円
(12か月すべて上限の場合は年1,668万円)
賞与(標準賞与額)の9.85%
※賞与の上限は年度(4月〜翌年3月)の累計で573万円
子ども・子育て支援金標準報酬月額の0.23%
※上限は健康保険料と同じ
賞与(標準賞与額)の0.23%
※上限は健康保険料と同じ
厚生年金保険料標準報酬月額の18.3%
※標準報酬月額の上限は月65万円
(12か月すべて上限の場合は年780万円)
賞与(標準賞与額)の18.3%
※賞与の上限は1か月あたり150万円(同じ月に複数回支給した場合は合算)

上記の保険料は会社と役員とで50%ずつ負担なので、例えば健康保険料の9.85%は会社が4.925%、役員が4.925%ずつ負担するということになります。なお、40歳から64歳までの方(介護保険第2号被保険者)は、原則としてこれに介護保険料(1.62%)が加わります。また、令和7年の年金制度改正により、厚生年金保険料の標準報酬月額の上限(65万円)は、2027年9月から68万円、2028年9月から71万円、2029年9月から75万円へと段階的に引き上げられます。

具体的な事例

非常に極端な例ですが、年間役員報酬1,200万円を次の2つのケースで支給する場合の社会保険料負担を比較します。

ケース①:定期同額給与100万円×12か月で支給

ケース②:役員賞与として1,200万円を同じ月に一括で支給

※ケース①の健康保険料と子ども・子育て支援金は、報酬月額100万円に対応する標準報酬月額98万円、厚生年金保険料は上限の65万円をもとに計算しています。いずれも39歳以下として計算しています。

ケース①ケース②差額
健康保険料96,530円×12か月=1,158,360円5,730,000×9.85%=564,405円593,955円
子ども・子育て支援金2,254円×12か月=27,048円5,730,000×0.23%=13,179円13,869円
厚生年金保険料118,950円×12か月=1,427,400円1,500,000×18.3%=274,500円1,152,900円
合計金額2,612,808円852,084円1,760,724円

上記の通り、ケース①の毎月の報酬にかかる保険料と、ケース②の賞与にかかる保険料を比べると、役員賞与で支払ったほうが176万円ほど少なくなります(金額はいずれも会社負担と本人負担の合計です)。ただし、わかりやすくするため、ケース②では毎月の役員報酬にかかる保険料を省いています。実際には毎月の報酬にも保険料がかかるため、削減できる額はこれより小さくなります。

役員賞与(事前確定届出給与)を実施するための手続

①株主総会などで支給日と金額を決定する

株主総会など、その会社で役員報酬を決める権限を持つ機関で、支給日と支給金額を定める必要があります。株主総会で決算を確定させる必要があり、確定申告は決算日後2カ月以内(申告期限の延長を行った場合は3カ月以内)であるため、役員賞与(事前確定届出給与)を翌期に支給するつもりであればこのタイミングまでに金額と支給日を考えておく必要があります。例えば12月決算であれば2月(あるいは3月)の株主総会までというイメージです。なお、毎月の役員報酬(定期同額給与)の金額も、通常はこの株主総会などで決める点に留意しましょう。

②届出書を税務署に提出する

支給日と金額を決めたら以下の期限までに届出を税務署に提出する必要があります。

区分届け出の期限
新設法人(設立の時に始まる職務について定める場合)設立の日から2か月を経過する日
新設法人以外下記のうちいずれか早い日
① 株主総会決議日から1か月経過日
(職務執行開始日後の場合は,開始日から1月経過日)
② 会計期間開始の日から4か月経過日

①のかっこ書きの職務執行開始日ですが、通常は定時株主総会から次の定時株主総会までが役員の職務執行期間になりますので、株主総会の日が開始日になります。また株主総会は基本的に期末から2カ月以内(開催時期について定款の定めがあり、かつ申告期限の延長を行っている場合は3カ月以内)に行われるため、①の方が日付的に早くなります。そのため多くの会社では株主総会決議日から1か月を経過する日が期日になります。ただし、実際の日付で①と②を比べ、早い方を期日としてください。

なお、申告期限の延長を受けている法人や、役職の変更など臨時の事情(臨時改定事由)で新たに定める場合などは、②の期限などに別の定めがあります。

③届け出た通りに支給を行う

届け出た通りのタイミングで届け出た通りの金額を支給する必要があります。

支給日が1日でも、金額が1円でも届け出と違うと、その支給は事前確定届出給与に当たらず、実際に支給した額が経費になりません。注意しましょう。

年に複数回の支給を予定している場合は、役員の職務執行期間(通常は定時株主総会から次の定時株主総会まで)を単位に判定します。同じ職務執行期間に係る支給が同じ事業年度の中に複数回あり、そのうち1回でも届け出通りに支給できないと、その職務執行期間に係るその事業年度の支給額は全額が経費になりません。例えば3月決算の会社が、6月の株主総会で同じ事業年度の7月と12月の年2回の支給を届け出た場合、7月は届け出た通りに支給したとしても、12月の支給を届け出通りに行わなかった(金額が違う、または支給しなかった)ときは、届け出た通りに払った7月分も含めて経費にできないということになります。

一方で、複数回の支給が事業年度をまたぐ場合は扱いが異なります。例えば3月決算の会社が、6月の株主総会で「12月と翌年6月」の支給を届け出た場合、12月は届け出た通りに支給し、翌年6月(翌事業年度)の支給が届け出と違ったとしても、先に届け出た通りに支給した12月の分は、その事業年度の経費のままです(国税庁の質疑応答事例)。翌年6月の分は、翌事業年度の経費になりません。

注意するべきポイントと活用法

役員報酬が経費として認められない場合

役員報酬が経費として認められるためには実質基準と形式基準を満たす必要があります。これらを満たしていない場合は経費にならないリスクがあります。形式基準は必ず満たしていただければと思いますが、実質基準はあいまいなものになっているため、役員賞与の金額を設定する際に根拠をしっかりと説明できるようにしておくことが大事だと思います。

形式基準は、決まった条件や手続きを守っているかどうかを判断する基準です。役員賞与で言えば下記の手続を遵守しているかどうかということになります。

  • 株主総会など権限を持つ機関で決議が行われていること
  • 事前確定届出給与に関する届出書が所轄税務署に期限内に提出されていること
  • 届出書に記載された通りの金額と時期に報酬が支給されていること

実質基準では、役員の職務内容、会社の財政状況、従業員の給与、同業類似の他社の役員給与等と比較して判断するものとされています。

おススメの支給タイミング

支給タイミングとしては決算前がおすすめです。事業が上手くいき決算前に役員賞与を払える状態であれば届け出通りに支給すればよいですし、業績や資金繰りの状況が悪い場合は、支給しないという経営判断も考えられるためです。

ただし、支給しなかった回は届け出通りの支給にはならないため、同じ事業年度の中で既に支給した役員賞与も経費にならなくなる点に注意が必要です(上の「③届け出た通りに支給を行う」)。支給しないかどうかは、税務上の影響を顧問税理士と確認したうえで判断しましょう。

また、支給しないと決めた場合は、会社としての決定と、役員が報酬を受け取らないことを支給日前に書面で明確にしておくこと(取締役会等の議事録、必要に応じて役員からの受領辞退書など)が実務上大切です。役員個人の所得税や源泉徴収の扱いは、報酬を受け取る権利がいつ成立し、いつなくなったかなどによって変わるため、個別に確認してください。

支給金額の設定方法

会社の状況ごとに異なると思いますので、事業計画を策定した上で、業績に応じて支給できる役員賞与を設定すればよいと思います。

ただ、毎月の役員報酬の金額を著しく下げ、かわりに役員賞与を多額にするという極端なやり方はあまりおすすめしません。極端すぎると、先に記載した役員賞与の金額設定の根拠を合理的に説明することが難しくなるためです。その他、決算前の状況に応じて役員賞与を取り下げるという柔軟な対応ができなくなる、最終の報酬月額をもとに役員退職金を計算する方法をとっている場合は将来の役員退職金が少なくなる等、様々なデメリットがあるため、毎月の役員報酬の金額を極端に下げることはリスクが大きいと思います。

今後の動向について

令和6年9月30日に行われた厚生労働省の第183回社会保障審議会医療保険部会の中で、毎月の社会保険料が非常に低い人がいる理由が検討されたのですが、その中で「代表取締役や役員が毎月の報酬を極端に低く設定し、高額な賞与を支給しているケースが存在する」ことが指摘されました。この論点は、その後の第186回医療保険部会でも、追加の実態分析をもとに議論されました。2026年10月時点では、健康保険の賞与の上限は年度累計573万円のままで、具体的な引き上げ額や時期は公表されていません。ただし、今後、健康保険の賞与の上限が引き上げられた場合には、役員賞与で健康保険料の負担を抑える効果が小さくなる可能性があります。

参考

この記事を書いた人

有村 啓史

有村 啓史事務所代表/公認会計士・税理士

慶應大学在学中に公認会計士に合格し、Big4の一つであるKPMGあずさ監査法人に新卒で入所。複数の上場企業の会計監査、内部統制監査に従事した後、2016年より米国のUCLAにMBA留学を行う。帰国後は日本マイクロソフト株式会社にBtoBマーケターとしてビジネスサイドの経験を積み、2021年にバイオベンチャーに入社し、CFOとしてIPO準備や資金調達業務などを経験した後、独立開業。不動産関連企業の監査役も務めている。

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