最新】キャリアアップ助成金(正社員化コース)のススメ.webp)
キャリアアップ助成金の活用のすすめ
スタートアップや中小企業にとって採用は大きな意思決定であり、人件費は事業上の負担も大きく資金繰りに大きな影響を与えます。正社員の増員を検討する際は、キャリアアップ助成金を利用して資金繰りへの影響を最小限に抑えることが重要です。本記事では、すべての中小企業経営者が押さえておきたいキャリアアップ助成金の正社員化コースについて、概要を解説します。
※本記事は、厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)」パンフレット(令和8年4月8日現在)に基づいて記載しています。令和8年度は、正社員化コースに「情報公表加算」(20万円、大企業は15万円)が新設されました。助成金の要件は年度の途中で変更されることがあるため、取組を始める前に必ず最新の情報をご確認ください。
※手続きや制度の詳細を網羅的にというよりは、経営者が押さえておきたいポイントをしぼって記載しています
キャリアアップ助成金の概要
概要
有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者といった、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取組みを行った事業者に対して助成する制度です。
対象者
キャリアアップ助成金を受給するためには、「支給対象事業主」に該当する必要があります。コースごとに支給対象事業主の要件は異なりますが、以下は全コース共通の要件です。支給対象事業主に該当すれば、個人事業主から大企業までの全ての事業者が利用することができます。民間の会社のほか、医療法人や社会福祉法人、NPO法人なども対象です。
<支給対象事業主の条件(全コース共通)>
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に係るキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長に提出した事業主
- 実施するコースの対象労働者の労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができる事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
なお、支給申請した年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主や、支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令の違反があった事業主などは、上記を満たしていても受給できません。
キャリアアップ助成金の6つのコース
正社員化支援と処遇改善支援の2つのカテゴリにわけられ、全部で6つのコースがあります。このうち、正社員の採用・登用を考える中小企業にとって必ず押さえておきたい正社員化コースについて以下で解説します。
| カテゴリ | コース名 | 概要 |
| 正社員化支援 | 正社員化コース | 非正規雇用労働者を正社員化した場合 |
| 障害者正社員化コース | 障害のある非正規雇用労働者を正規雇用労働者等に転換する場合 | |
| 処遇改善支援 | 賃金規定等改定コース | 非正規雇用労働者の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用した場合 |
| 賃金規定等共通化コース | 非正規雇用労働者に、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成・適用した場合 | |
| 賞与・退職金制度導入コース | 非正規雇用労働者に対して賞与・退職金制度を新たに設け、支給または積立てを実施した場合 | |
| 短時間労働者労働時間延長支援コース (当分の間の暫定措置) | 短時間労働者を新たに社会保険に加入させるとともに、労働時間の延長等の取組を行った場合 |
※令和7年度まであった「社会保険適用時処遇改善コース」は令和7年度末で廃止され、令和8年度以降の新たな取組は「短時間労働者労働時間延長支援コース」の対象となります。すでに旧コースの計画を提出している場合などには経過措置があります。
正社員化コースの詳細
正社員化コースの支給額と加算額
令和8年度(令和8年4月8日現在)の支給額は以下の通りで、1人当たりの支給額は令和7年度から変わっていません。支給額は、転換する人が「重点支援対象者」に該当するかどうかで大きく変わります。重点支援対象者は、雇入れから3年以上の有期雇用労働者など下記※2のa~cに該当する人で、2期分(中小企業で有期雇用から転換する場合は最大80万円)を申請できます。それ以外の人は1期分(同40万円)です。正社員への転換を予定している人がどちらに当たるかを、事前に確認しておきましょう。
<支給額>
| 企業規模 | 正社員化前の雇用形態 | |
| 有期雇用 | 無期雇用(※3) | |
| 中小企業事業主(※1) | 重点支援対象者(※2):80万円(40万円×2期) 重点支援対象者以外:40万円 | 重点支援対象者:40万円(20万円×2期) 重点支援対象者以外:20万円 |
| 大企業 | 重点支援対象者:60万円(30万円×2期) 重点支援対象者以外:30万円 | 重点支援対象者:30万円(15万円×2期) 重点支援対象者以外:15万円 |
※支給申請できるのは、1年度1事業所当たり20人までです(重点支援対象者の2期目の申請は人数に含みません)。
※1 中小企業事業主かどうかの判定は資本金の額や常時雇用する労働者の数で行います。
| 業種 | 資本金の額・出資の総額 | 常時雇用する労働者の数 | |
|---|---|---|---|
| 小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | または | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | |
| その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
※2 重点支援対象者とは、a~cのいずれかに該当する者
a:雇入れから3年以上の有期雇用労働者
b:雇入れから3年未満で、次の①②いずれにも該当する有期雇用労働者(新規学卒者を除く)
①雇い入れの日の前日から起算して、過去5年間に正規雇用労働者であった期間が合計1年以下
②雇い入れの日の前日から起算して、過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない
c:派遣労働者(派遣先で正社員として直接雇用する場合)、母子家庭の母等または父子家庭の父、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者
※雇用された期間が通算5年を超える有期雇用労働者については無期雇用労働者とみなされる
※3 契約期間に定めがある労働契約かどうかで有期雇用と無期雇用に分かれます。「3年契約」等、有期契約を更新して合計で5年を超えた場合は労働者が無期雇用への転換を申し込むことができ、原則として事業者は申し込みを拒否できません。この場合は申し込みを行った労働者は無期雇用になれますが、契約内容は有期契約時と変わらないことが多いため正社員とは区別されています。派遣労働者やパート等の短時間労働者についても同様に有期雇用と無期雇用のパターンがあります。
<加算額>
| 内容 | 加算額 |
| ①正社員転換制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合(1事業所当たり1回のみ) | 20万円(大企業は15万円) |
| ②多様な正社員制度(※)を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合(1事業所当たり1回のみ) ※勤務地限定・職務限定・短時間正社員いずれか1つ以上の制度 | 40万円(大企業は30万円) |
| 【令和8年度新設】③正規雇用労働者への転換等に係る所定の情報を、自ら管理するウェブサイトまたは職場情報総合サイト(しょくばらぼ)に公表した場合(1事業所当たり1回のみ) | 20万円(大企業は15万円) |
令和8年度に新設された「情報公表加算」
情報公表加算は、非正規雇用労働者の処遇改善に向けた企業の自主的な情報公開を促すために設けられた加算です。令和8年4月8日以降に対象労働者を正社員転換等する場合に申請の対象となります。
<公表する場所>
①自社で編集・公開・削除の管理権限を持ち、一般公開されている自社のホームページ、または②厚生労働省が運営する「職場情報総合サイト(しょくばらぼ)」のどちらかに掲載します。社内ポータルや会員登録が必要なサイトなど一般公開されていないサイトや、求人サイト・転職サイトの企業ページのように、事業主が編集・公開・削除の権限を持たず公表を続けられるか担保できないサイトへの掲載は認められません。
<公表する内容>
就業規則等に定めている正社員転換制度(派遣労働者の直接雇用制度を含む)のすべてについて、次の①~③をすべて公表する必要があります。
- 制度の概要(手続き(面接試験・筆記試験等)、転換の要件(勤続年数や人事評価結果など客観的に確認できる基準)、実施時期(「毎年4月・10月」など))
- 直近3事業年度に正社員へ転換した人数
- 直近3事業年度に正社員へ転換した人について、入社から転換までにかかった平均期間と最短期間
たとえば、「入社後6か月以上勤務している契約社員を対象に、書類選考と面接で毎年4月・10月に正社員登用を実施。令和5~7年度の登用実績は6人、入社から登用までの最短期間210日・平均期間450日」といった形です。設立間もない会社などで転換実績がない場合も、「0人(実績なし)」と明記する必要があり、何も書かないと加算の対象になりません。
<公表のタイミングと期間>
公表日は、キャリアアップ計画期間中で、かつ支給申請日までである必要があります。また、支給申請日から少なくとも支給申請した事業年度の終わりまでは公表を続けることが求められます。システム障害などやむを得ない事情で一時的に公表できない場合を除き、申請後に公表を取り下げたことが分かった場合は要件を満たさないものとして扱われます。しょくばらぼに掲載する場合は、企業利用者登録と掲載内容の審査にそれぞれ数営業日かかるため、余裕をもって準備しましょう。
非正規雇用労働者の対象や注意点等
(1)非正規雇用労働者である期間は6カ月間以上必要
キャリアアップ助成金の対象となる労働者は、原則として、賃金の額や計算方法が正社員と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6カ月以上受けていることが必要です(派遣労働者や、所定の有期実習型訓練を修了した人には別の判定方法があります)。実態として待遇に差があっても、就業規則等で正社員と異なる規定を定めていなければ対象になりません。
(2)パートやアルバイト、派遣社員はキャリアアップ助成金の対象
パート&アルバイトはキャリアアップ助成金の対象です。また派遣社員を正社員として直接雇用する場合も当該助成金の対象となっています。
(3)正社員転換後の6か月間の賃金を3%以上増やす必要がある
正社員転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金と比べて3%以上増額させる必要があります。たとえば、転換前6か月の賃金が合計150万円(月25万円)なら、転換後6か月で154万5,000円以上を支払う必要があります。また、転換後の正社員には「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている必要があるため、就業規則の規定もあわせて確認しましょう。
(4)業務委託や請負などで働いていた人は対象外
正社員転換の前日から過去3年以内に、キャリアアップ助成金を申請しようとする会社または関連会社で、業務委託(委任)や請負の関係にあった人や、正社員・役員として働いていた人は、その後に非正規社員として入社し正社員転換しても、支給対象外となっています。
(5)事業主・取締役の3親等以内の親族は対象外
事業主または取締役の3親等以内の親族(3親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族)は本助成金の対象外となっています。事業主・取締役の子供や親、配偶者だけでなく、甥っ子や姪っ子、配偶者の親や兄弟姉妹なども含まれるため、身近な親族を正社員化する場合は対象外になることが多いと考えておきましょう。
(6)正社員採用の試用期間は非正規雇用労働者(無期雇用)扱い
「正社員として雇用したが最初の数カ月間は試用期間である」という形で採用するパターンは広く知られていると思いますが、試用期間はキャリアアップ助成金の中では非正規労働者(無期雇用)としての扱いであり、試用期間が終了した日の翌日に正社員化したとみなされるため注意が必要です。そもそも、正社員求人に応募し、正社員として雇用することを約束して雇い入れた人は対象外です。
(7)新卒で入社して1年以内の人は対象外
新規学卒者で、雇い入れられた日から1年を経過していない人は支給対象外です。たとえば、令和8年4月1日に入社した新卒者は、令和9年3月31日まで対象外です。ただし、卒業後に就職先が決まり、5月に入社したような人は対象となり得ます。
申請の流れとおススメの対応法
申請の流れ
下記が申請の流れの全体像になっています。正社員化を実施してもすぐに助成金を受け取ることはできず、正社員化後6カ月分の賃金を支払った後に支給申請という流れになるため長期的な取り組みが必要です。キャリアアップ計画は、正社員転換を行う日の前日までに提出しておく必要がある点にも注意しましょう。

出典:キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度版)(パンフレット)より。令和8年度版のパンフレットでも手続きの流れは同じです(令和8年度版では「正社員化」が「正社員転換」という表記になっています)。
支給申請は、正社員としての賃金を6か月分支給した日の翌日から起算して2か月以内に行います。重点支援対象者の2期目は、12か月分を支給した日の翌日から2か月以内です。申請期間を過ぎると受給できないため、スケジュールを管理しておきましょう。
社内リソースがないor経験がない場合は社労士に依頼しよう
キャリアアップ助成金の申請は、社内の就業規則が助成金の要件を満たしているかの確認など、対応しなければならない事項が多く煩雑です。そのため、社内に対応できるリソースがなかったり、リソースがあっても経験者がいない場合は、最初は社労士に依頼するのがよいでしょう。
キャリアアップ助成金は、補助金のように申請者同士で競う採択方式ではなく、提出書類の審査ですべての支給要件を満たしていると判断されれば支給される制度です(下記の「助成金と補助金の違い」を参照)。要件の確認がポイントになるため、まずはプロにお願いし、2人目以降については社内で対応できるかを検討するという流れがよいでしょう。
(参考)助成金と補助金の違い
| 助成金 | 補助金 | |
| 目的 | 雇用や労働環境の改善 | 設備投資や新規事業開発等の支援 |
| 受給条件 | 審査ですべての支給要件を満たしていると判断されれば受給可能 | 審査で採択された企業のみ受給可能 |
| 申請期間 | 通年申請が多い | 限られた申請期間(年数回程度実施) |
| 専門家 | 申請書の作成・提出代行を報酬を得て業として行えるのは、原則として社労士 | 税理士や行政書士、コンサルティング会社等 |
※雇用関係の助成金(キャリアアップ助成金など)と、公募型の事業補助金(ものづくり補助金など)の一般的な傾向です。実際の目的や審査方法は制度ごとに異なります。
まとめ
キャリアアップ助成金正社員化コースは、非正規雇用労働者の待遇改善と企業の成長を同時に実現できる有効な制度です。令和8年度は1人当たりの支給額は据え置きとなった一方で、正社員転換制度の内容や転換実績を自社のホームページやしょくばらぼで公表すると20万円(大企業は15万円)が加算される「情報公表加算」が新設されました。
正社員を増やすことを検討する際は、キャリアアップ計画の事前提出や就業規則の整備、転換後の賃金3%増額といった要件を満たせるかを確認し、適用できる可能性がありそうであればすぐに社労士に相談することをおススメします。
参考
