最新】キャリアアップ助成金(正社員化コース)のススメ.webp)
キャリアアップ助成金の活用のすすめ
スタートアップや中小企業にとって採用は大きな意志決定であり、人件費は事業上の負担も大きく資金繰りに大きな影響を与えます。正社員の増員を検討する際は、キャリアアップ助成金を利用して資金繰りへの影響を最小限に抑えることが重要です。本記事では全ての中小企業経営者が抑えるべきキャリアアップ助成金の正社員化コースについての概要を解説します。
※手続きや制度の詳細を網羅的にというよりは、経営者が抑えるべきポイントをしぼって記載しています
キャリアアップ助成金の概要
概要
有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者といった、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取組みを行った事業者に対して助成する制度です。
対象者
キャリアアップ助成金を受給するためには、「支給対象事業主」に該当する必要があります。コースごとに支給対象事業主の要件は異なりますが以下が共通要件です。支給対象事業主に該当すれば、個人事業主から大企業までの全ての事業者が利用することができます。
<支給対象事業主の条件>
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対しキャリアアップ計画の作成、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主
- 該当するコースの措置に係る対象労働者に対し、賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
キャリアアップ助成金の6つのコース
正社員化支援と処遇改善支援の2つのカテゴリにわけられますが、全部で6つのコースがあります。6つのコースの中で最も多く利用されており、必ず抑えるべき正社員化コースについて以下で解説します。
カテゴリ | コース名 | 概要 |
正社員化支援 | 正社員化コース | 非正規雇用労働者を正社員化した場合 |
障害者正社員化コース | 障害のある非正規雇用労働者を正規雇用労働者等に転換する場合 | |
処遇改善支援 | 賃金規定等改定コース | 非正規雇用労働者の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定した場合 |
賃金規定等共通化コース | 非正規雇用労働者に、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成・適用した場合 | |
賞与・退職金制度導入コース | 非正規雇用労働者に対して賞与・退職金制度を新たに設け、支給または積立てを実施した場合 | |
社会保険適用時処遇改善コース | 労働者を社会保険に加入させ、収入増加の取り組み(手当支給・賃上げ・労働時間延長)を行った場合 |
正社員化コースの詳細
正社員化コースの支給額と加算額
2025年4月1日の正社員転換からの支給額は以下の通りです。中小企業経営者が抑えるべき点は重点支援対象者以外正社員化です。重点支援対象者の定義は以下に記載していますが、すでに3年以上有期雇用が継続している等、社会的により強く救済が求められる方が対象となっているため、中小企業が継続的に利用できるものではありません。そのため、継続的に利用できる可能性がある重点支援対象者以外に関して特に押さえておくべきだと思います。
<支給額>
企業規模 | 正社員化前の雇用形態 | |
有期雇用 | 無期雇用(※3) | |
中小企業事業主(※1) | 重点支援対象者(※2):80万円(40万円×2期) 重点支援対象者以外:40万円 | 重点支援対象者:40万円(20万円×2期) 重点支援対象者以外:20万円 |
大企業 | 重点支援対象者:60万円(30万円×2期) 重点支援対象者以外:30万円 | 重点支援対象者:30万円(15万円×2期) 重点支援対象者以外:15万円 |
※1 中小企業事業主かどうかの判定は資本金の額や常時雇用する労働者の数で行います。
業種 | 資本金の額・出資の総額 | 常時雇用する労働者の数 | |
---|---|---|---|
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | または | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
※2 重点支援対象者とは、a~cのいずれかに該当する者
a:雇入れから3年以上の有期雇用労働者
b:雇入れから3年未満で、次の①②いずれにも該当する有期雇用労働者
①過去5年間に正規雇用労働者であった期間が合計1年以下
②過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない
c:派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者
※雇用された期間が通算5年を超える有期雇用労働者については無期雇用労働者とみなされる
※3 契約期間に定めがある労働契約かどうかで有期雇用と無期雇用に分かれます。「3年契約」等、有期契約を更新して合計で5年以上になった場合は労働者が無期雇用への転換を申し込むことができ、原則として事業者は申し込みを拒否できません。この場合は申し込みを行った労働者は無期雇用になれますが、契約内容は有期契約時と変わらないことが多いため正社員とは区別されています。派遣労働者やパート等の短時間労働者についても同様に有期雇用と無期雇用のパターンがあります。
<加算額>
内容 | 加算額 |
正社員転換制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合(1事業所当たり1回のみ) | 20万円(大企業は15万円) |
多様な正社員制度(※)を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合(1事業所当たり1回のみ) ※勤務地限定・職務限定・短時間正社員いずれか1つ以上の制度 | 40万円(大企業は30万円) |
非正規雇用労働者の対象や注意点等
(1)非正規雇用労働者である期間は6カ月間以上必要
キャリアアップ助成金の対象となる労働者は賃金の額や計算方法が正社員と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6カ月以上受けていることが必要です。
(2)パートやアルバイト、派遣社員はキャリアアップ助成金の対象
パート&アルバイトはキャリアアップ助成金の対象です。また派遣社員を正社員化する場合も当該助成金の対象となっています。
(3)業務委託はキャリアアップ助成金の対象外
正社員化の前日から過去3年以内にキャリアアップ助成金を申請しようとする会社または関連会社で業務委託、請負などとして働いていた場合、その後に非正規社員として入社し正社員転換しても、支給対象外となっています。
(3)取締役等の3親等以内の親族は対象外
取締役等の3親等以内は本助成金の対象外となっています。取締役等の子供や親だけでなく甥っ子や姪っ子まで含まれるため、取締役等の家族は基本的に対象外だととらえておくべきでしょう。
(4)正社員採用の試用期間は非正規雇用労働者(無期雇用)扱い
「正社員として雇用したが最初の数カ月間は試用期間である」という形で採用するパターンは広く知られていると思いますが、試用期間はキャリアアップ助成金の中では非正規労働者(無期雇用)としての扱いであり、試用期間が終了したタイミングで正社員化したとみなされるため注意が必要です。
申請の流れとおススメの対応法
申請の流れ
下記が申請の流れの全体像になっています。正社員化を実施してもすぐに助成金を受け取ることはできず、正社員化後6カ月分の賃金を支払った後に支給申請という流れになるため長期的な取り組みが必要です。

出典:キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度版)(パンフレット)より
社内リソースがないor経験がない場合は社労士に依頼しよう
キャリアアップ助成金の申請は、社内の就業規則が助成金の要件を満たしているかの確認など、対応しなければならない事項が多く煩雑です。そのため、社内に対応できるリソースがなかったり、リソースがあっても経験者がいない場合は、最初は社労士に依頼するのがよいでしょう。
キャリアアップ助成金は”助成金”であるため基本的に申請に不備がなければ通るため(下記の「助成金と補助金の違い」を参照)、まずはプロにお願いし2人目以降については社内で対応できるかを検討するという流れがよいでしょう。
(参考)助成金と補助金の違い
助成金 | 補助金 | |
目的 | 雇用や労働環境の改善 | 設備投資や新規事業開発等の支援 |
受給条件 | 要件を満たせば基本的に受給可能 | 審査を通った企業のみ受給可能 |
申請期間 | 通年申請が多い | 限られた申請期間(年数回程度実施) |
専門家 | 社労士の独占業務 | 税理士や行政書士、コンサルティング会社等 |
まとめ
キャリアアップ助成金正社員化コースは、 非正規雇用労働者の待遇改善と企業の成長を 同時に実現できる有効な制度です。正社員を増やすことを検討する際は、キャリアアップ助成金の適用ができるかどうかを検討し、可能性がありそうであればすぐに社労士に相談することをおススメします。