経営者が知っておくべき、節税に対する考え方について記載します(以下、法人を前提に記載しますが、個人事業主でも基本的な考え方は同様です)。

知っておきたい!節税に対する考え方
節税の基礎知識
節税の目的
節税とは、税法を遵守しながら税金を抑える手法です。脱税とは異なり、合法的に税金を減らすことが目的です。節税によって事業の資金をより多く残すことで事業活動をより円滑に長期的に行っていくことが可能になります。
脱税との違い
節税と脱税は全くの別物です。節税は、税法で認められた控除や優遇措置を最大限に活用することで、合法的に税金を減らすことを指します。一方、脱税は、虚偽の申告や申告漏れなど、法律に違反する行為であり、重い罰則が科せられます。例えば、架空の経費を計上して税金を減らすような試みは脱税行為になります。
経費の無駄遣いとの違い
節税と経費の無駄遣いも同様に全く異なります。税金を払いたくない一心で事業に関係のないものに経費を使ったり、事業へつながる見込みがないのに交際費をたくさん使うような行為は無駄遣いになります。経費の無駄遣いは文字通り無駄であり、財務状態にも悪影響を及ぼすためやるべきではありません。例えば、事業に使う予定がないのに節税だと考えて4年落ちのベンツを買う行為や、期末に使う予定のない消耗品を大量に購入する行為は無駄遣いに該当すると思います。
節税の種類
節税方法の種類(課税の繰り延べVS税金の減額)
節税という言葉ですが、①課税の繰り延べと②税金の減額の2つの種類があります。「節税になりますよ!」という売り文句を聞いたときにどちらの話をしているのかを判断することは非常に重要です。②の税金の減額は例えば税額控除と呼ばれるものが該当し、こちらは理解しやすいと思います。また、所得を分散させることで適用される税率を下げる試みも②にあたるでしょう。
①について少し詳細に解説します。
課税の繰り延べとは
課税の繰り延べは、課税されるタイミング、つまり税金を支払うタイミングを遅らせることです。
「結局支払うから支払うタイミングずらしても何にも意味ないんじゃない?」と思う方もいらっしゃると思いますが、実は意味があります。以下に例を記載します。
本来3年で減価償却を行うべき資産(900万円の機械装置と仮定)を優遇税制等によって1年で減価償却を行った場合の影響を考えます。トータルの経費の金額は変わらないですが、経費の計上を一括で行うことができるため税金の支払いを遅らせることができ、課税の繰り延べに該当します。
事業スタート時に2,000万円の現金を保有し、投資額に対して50%の利益(減価償却費考慮前)が得られるビジネスを行っていると仮定します。また、税率は30%であると仮定します。
期初に取得した機械装置900万円を3年で償却した場合(ケース1)と特別償却によって1年で償却できた場合(ケース2)の差を見てみましょう。
<ケース1:3年で300万円ずつ減価償却>
事業年度 | X1年期初(事業開始時) | X1年末 | X2年末 | X3年末 |
①税引前利益 (減価償却費考慮前/前期手元現金×50%) | – | 1,000 | 1,395 | 1,928 |
②減価償却費 | – | 300 | 300 | 300 |
③税引前利益 (減価償却費考慮後) | – | 700 | 1,095 | 1,628 |
④税金(=③×30%) | – | 210 | 328 | 488 |
⑤純利益(=③-④) | – | 490 | 767 | 1,140 |
⑥現金残高 | 2,000 | 2,790 (=期初の現金残高2,000 +①1,000(※)-④210) | 3,857 (=期初の現金残高2,790 +①1,395(※)-④328) | 5,296 (=期初の現金残高3,857 +①1,928(※)-④488) |
※減価償却費は現金支出を伴わない費用であるため計算上は①税引前利益(減価償却費考慮前)を利用
X3年末時点での手元現金残高は5,296万円になります。
次に、機械装置を1年で償却した場合の各財務数値を見てみましょう。
<ケース2:1年で900万円全額減価償却>
事業年度 | X1年期初(事業開始時) | X1年末 | X2年末 | X3年末 |
①税引前利益 (減価償却費考慮前/前期手元現金×50%) | – | 1,000 | 1,485 | 2,005 |
②減価償却費 | – | 900 | 0 | 0 |
③税引前利益 (減価償却費考慮後) | – | 100 | 1,485 | 2,005 |
④税金(=③×30%) | – | 30 | 446 | 601 |
⑤純利益(=③-④) | – | 70 | 1,040 | 1,403 |
⑥現金残高 | 2,000 | 2,970 | 4,010 | 5,413 |
お気づきでしょうか?X3年末の現金残高が5,413万円になっており、ケース1に比べて117万円増額しています。
これは、下記のロジックによるものです。
「X1年末に減価償却費を全額計上することで支払う税金が減った」⇒「現金残高が増えた」⇒「投資が増えた」⇒「翌期以降の利益が増えた」⇒「X3末の手許残高が増えた」
支払いのタイミングを後ろにずらすことで、手元のお金が増え、それを事業に回すことでよりスピーディに成長ができるということになります。
税額控除と特別償却のどちらがよい?
機械の取得等において一定の税制優遇措置を適用すると、特別償却か税額控除を選ぶことができる場合があります。
上述の通り、特別償却は課税の繰り延べであり税額控除は税金の減額ですが、どちらがよいかは事業の状況によります。すでに資金繰りに余裕がある場合は税額控除を選ぶかもしれませんし、大きく課税を繰り延べて投資に回した方が将来的にキャッシュをより多く得られる状況であれば特別償却を選ぶこともあるでしょう。どちらを選択すべきかを悩む場合は顧問税理士に相談するようにしましょう。
経営者が持つべき節税に対する考え方
基本的な考え方
上記で説明した通り、脱税は違法行為なので行ってはいけません。また、経費の無駄遣いは事業にとって何のプラスにもならないため行うべきではありません。
それでは節税はどうでしょうか?常に行った方がよいでしょうか?
実は課税の繰り延べを含めた節税対策にはキャッシュアウトを伴うものとそうでないものに分かれるため、この点をもう少し突っ込んで考える必要があります。
上で挙げた特別償却の例のような、キャッシュアウトを伴わない節税対策は基本的に行うべきです。
一方で節税対策の多くはキャッシュアウトを伴う場合が多く、この場合は非常に慎重に検討する必要があります。節税対策のためにむやみに現金を使ってしまうと、本業に対しての投資ができなくなる可能性があるからです。そのため、現金残高に余裕がない場合はキャッシュアウトを伴う節税対策は行うべきではないと考えます。節税というワードを聞いたときには、税金を減額するものなのか課税の繰り延べなのかという視点の他に、キャッシュアウトを伴う性質を持つのかというのは必ず意識していただければと思います。
期末が近づいてきて、節税対策を考えるタイミングで検討していただきたいポイントは主に下記です。①⇒③の順番でご検討いただければと思います。
手順①:キャッシュアウトを伴わない節税対策でまだ実施できていないものがあれば実施する
具体的な方法ついては今後の記事でもいくつか紹介しようと考えていますが、複数存在するため顧問税理士等に相談いただければと思います。
また、税制優遇措置の中で特別償却(課税の繰り延べ)か税額控除(税金の減額)かを選べる場合もあります。どちらがよいのかは事業の状況によるためこちらも顧問税理士等に相談するようにしましょう。
手順②:事業成長のために期末までに実行できる施策はないかを検討する
ほとんどのビジネスモデルにおいて、事業投資から得られるリターンの方が節税対策によって得られるリターンよりも大きいです。そのため、まずは事業投資として使えるものがないかを検討するのがおすすめです。
手順③:キャッシュアウトを伴う節税対策を行う(※現金残高に余裕がある場合のみ)
逆に言えば資金に余裕がない場合は基本的にキャッシュアウトを伴う節税対策を行うべきではないと思います。会社が生きるか死ぬかは現金がなくなるかどうかにあります。資金繰りに余裕がないのに無理に節税対策を行い、翌期以降の銀行の評価を下げてしまうと追加の借入も厳しくなってしまう可能性があります。
「業績は悪くないのになぜか現金がなく、税金の支払いさえ大変だ」と感じている場合は、過剰な節税対策(無駄遣いも含む)を行っていないかを改めて見直してみる必要があると思います。資金繰りに余裕がない場合は無理に節税対策を行わないことで、貸借対照表の財務指標を向上させ、翌期以降の金融機関からの融資などに目を向けることが大事です。