「事業を始めたいけれど、手元に資金がない…」そんな状況で頼りになるのが、日本政策金融公庫(以下、公庫)の創業融資です。
ただ、多くの方が気になるのは「自己資金なし(または非常に少ない)でも融資を受けられるのか?」という点。本記事では、公庫の融資制度における自己資金の位置づけと、自己資金が少ない場合の対応策等について解説します。

なお、公庫の創業融資の全体概要については【創業者&起業家必見】日本政策金融公庫の創業融資の流れ&審査対策を徹底解説に記載していますのでご参照ください。

自己資金が全くないと融資判断に対して悪影響がある

自己資金は「事業に投下予定の返済の必要がないお金」のこと

自己資金とは「事業に投下予定の返済の必要がないお金」を指します。給与等からこつこつと貯めてきた貯金が自己資金として典型的な形であり「起業のために努力して資金をためることができる人」という印象を与えることができるため、日本政策金融公庫の審査においても評価されます。親戚からの借入などは返済の必要があるため自己資金には含まれません。

また、公庫とのコミュニケーションの中での自己資金とは、事業に必要な金額のうち、自己資金として事業に拠出する金額を指します。例えば1,000万円もっていても事業に200万しか使わない場合は、申請書類上の自己資金は200万円になります。

(法人の場合)自己資金=資本金ではない

資本金は自己資金の一部を形成しますが、自己資金とは異なるものです。

例えば貯金としては1,000万円持っていて、その内100万円を資本金として法人を設立しようとしており、さらに貯金から100万円を事業に充てようと思っている(法人から見れば役員借入金に該当)場合を考えてみましょう。法人の融資申請書類の一つである創業計画書に自己資金の金額を記載する欄がありますが、この例では実際に事業に投下する予定である200万円(=資本金100万円+事業投下予定の資金100万円)を自己資金として記載すべきということになります。

制度上は自己資金要件はない

公庫の創業融資である新規開業・スタートアップ支援資金の概要は下記ですが、自己資金に関する要件はありません。そのため制度上は自己資金なしでも融資申請することができということになります。

項目概要
対象者新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方
※適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる方のみ
資金の使い道新規事業または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金
融資限度額7,200万円(うち運転資金4,800万円)
返済期間設備資金:20年以内(うち据置期間5年以内)
運転資金:10年以内(うち据置期間5年以内)
利率基準利率
※所定の要件に該当する場合は特別利率を適用
※新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方はさらに下記の創業支援貸付利率特例制度を利用可能
・各融資制度に定める利率-0.65%
・ただし、雇用の拡大を図る場合は、各融資制度に定める利率-0.9%
利率の詳細は下記の出典URLでご確認ください。
担保要相談
※新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方は、原則として無担保・無保証人

出典:「新規開業・スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫」を元に当事務所作成

自己資金の金額は融資判断において非常に重要な要素の1つ

制度上は自己資金の要件はありませんが、自己資金が全くないと融資が受けられない可能性もあります。融資判断の際は①経験、②自己資金、③事業計画の3つの要素が非常に大きいとされており、その内の一つである自己資金が全くないと融資判断に悪影響をもたらすからです。自己資金が少ないと結果的に金利が高くなったり、融資金額が希望金額よりも低くなってしまう場合がありますが、経験や事業計画などの自己資金以外の審査ポイントもアピールが弱い場合は、融資が受けられないこともあります。

自己資金として必要な金額の目安

前身の制度では必要資金総額の10分の1の自己資金が必要だった

新規開業・スタートアップ支援資金の前身である、新創業融資制度(※2024年に廃止済)においては、創業融資の申請の際には自己資金が調達額合計の10分の1以上ないと申請できないという条件がありました。今の制度では自己資金要件はなくなっていますが、過去の制度で存在した10分の1という指標は最低基準の目安として認識しておいてもよいでしょう。

調達合計に占める自己資金割合は平均2割強

過去3年の調達額合計に占める自己資金額の平均割合は2割程度となっています。こちらの2割という数値も参考にしておくとよいでしょう。

調査年度調達額合計(平均)自己資金額(平均)自己資金割合(平均)
2022年1,274万円271万円21%
2023年1,180万円280万円24%
2024年1,197万円293万円24%

出典:新規開業実態調査(2024年)を元に当事務所で加工

目安はあっても画一的な基準は存在しない

再掲ですが、自己資金の金額は融資判断の際の指標のひとつにすぎません。10分の1、2割という指標はあくまで参考ですので、最終的には融資担当者の総合的な判断になります。

自己資金がない場合の対応方法と注意点

一定の資金をためてから申請を行う

できれば必要金額の20%程度をためてから融資申請を行うというのが最も堅実なオプションになります。融資が急ぎでない場合は、申請のタイミングをずらして貯蓄に専念するのも選択肢の一つです。

自己資金とは別の資産(株式、投資信託、不動産など)がある場合は公庫担当者に伝達する

コツコツと資産形成してきたというアピールという観点では、必ずしも貯金という形式である必要はありません。株や不動産など貯金以外の資産がある場合は必ず伝達しましょう。また、事業に投下する自己資金は少ないけど、貯金としてはたくさんあるという場合は貯金の金額も伝えるようにしましょう。

家族等から贈与を受ける

家族や親戚から贈与を受けた場合の資金は自己資金として認められますが、もらう時は贈与契約書を締結し、借入ではなく贈与であることがはっきりと示せる必要があります。また、口座振り込みで口座明細に記録が残る形で受け取る必要があります。返還の必要が一切ないことが自己資金の要件なので、「借入なのでは」と疑われる余地を残さないようにしましょう。

(法人の場合)知人等から出資を受ける

法人の場合は出資を受けた部分(=資本金の一部を構成)も自己資金としてみなすことができますので、共同創業者等がいる場合は検討するとよいでしょう。

自己資金がない理由を説明する

申請時点で自己資金がない理由が合理的であれば審査の際にその理由を考慮してくれる可能性があります。例えば「コツコツと5年かけて500万貯めていたが、1カ月前に親戚の手術費用として500万円を拠出してしまったため、現在は自己資金がない」等。通帳明細等で理由の裏付けが示せれば、少なくとも堅実に貯める能力があるという点は伝えられるはずです。

自己資金以外のポイントをアピールする

①経験、②自己資金、③事業計画の3つの要素が融資判断の際に非常に重要な要素ですが、自己資金が弱い場合、残りの要素である経験と事業計画を強くアピールすることで、自己資金の不足に対するマイナスをリカバリーできる可能性があります。特に、見込み顧客がいたりすでに一定の顧客基盤がある等、事業計画を実現できる可能性が高い場合は必ず主張するようにしましょう。

注意:見せ金は不可

見せ金とは、「自己資金があるかのように見せかけるため、一時的に第三者から資金を借り入れる行為」のことです。第三者から一時的に資金を借り入れ、その金額を自己資金として融資申請を行い、融資がおりた後で借り入れた金額を第三者に返済する流れになります。見せ金は金融機関の担当者を騙して金銭を得る行為とみなされ、詐欺罪に問われる可能性もあるため行ってはいけません。

まとめ:自己資金なしでも申請可能だが、できるだけ用意しよう

公庫の創業融資は、制度上は自己資金ゼロでも申込み可能です。ただ、公庫が発表している資料によると調達額合計に占める自己資金額の平均割合は2割程度となっており、実務的にはある程度貯めてから申し込みを行った方が有利なため、タイミングをずらせる方は時期をずらして自己資金をためてから申請することをおススメします。どうしても今すぐに申込む必要があるという方は、事業計画や経験等他の要素で十分にアピールできれば最終的に希望する金額の融資を受けれる可能性が高まるため、しっかりと準備するようにしましょう。
アピールの方法などに迷ったら、専門家に相談しながら進めることをおススメします。公庫の創業融資については当事務所でも支援を行っていますので、是非お気軽にご相談ください。

なお、公庫の創業融資の全体概要については【創業者&起業家必見】日本政策金融公庫の創業融資の流れ&審査対策を徹底解説に記載していますので合わせて活用ください。