「資産管理会社を使うと節税できる」という話を聞いたことがある方は比較的多いと思いますが、実は上場企業経営者の多くも資産管理会社を利用しています。この数年、IPOを達成した企業の経営者のうち約40%~50%程度が資産管理会社を利用していたとされています。この記事では、資産管理会社を保有することで得られるメリットや注意点を解説します。

資産管理会社とは

資産管理会社とは、土地や建物等の不動産や株式等の有価証券を持っている方がその財産を効率的に管理・運用するために設立される法人です。

資産管理会社を活用することで様々なメリットがありますが、オーナー経営者等の相続税対策として使われていることが多いです。実際に2024年に上場した企業86社のうち、39社が資産管理会社を保有していたことからも経営者にとって魅力的な手法だと言えます。

資産管理会社を利用するメリット

メリットを以下に記載しますが、下記のうち資産管理会社のメリットとして特徴的なのは(1)です。(2)以降に関しては資産管理会社に限らず、一般的に法人を設立することで得られるメリットです。

(1)相続対策として利用できる

①家族で所得を分散できる

例えば個人で不動産等を複数所有している場合、不動産から得られる収入はその個人のみの所得となります。一方で資産管理会社に不動産を持たせ、親族をその会社の役員とすることで、不動産から得られる収入を役員報酬という形で家族に分配することができます。所得税は累進課税であり所得に応じて税率が高まりますが、親族に渡す金額が小さければ親族側でほとんど所得税がかからないため、家庭全体でみると税負担を抑えることができ、かつ、生前贈与の手段としても活用できます。

②相続時の遺産分割の手間やコストを削減できる

不動産を持っていた個人が亡くなって配偶者と子供に相続された場合、不動産は相続財産として配偶者と子供で半分ずつ所有されるような形になります。不動産を複数持っている場合はそれぞれについて名義を変更するための登記手続も大変ですし、不動産取得税の支払いも必要です。また、所有権が分かれているため、不動産を売却や賃貸等で利用しようとしても所有者間の意見調整が必要になり非常に手間がかかります。一方で、資産管理会社に不動産を持たせた場合、相続時に相続されるのは資産管理会社の株のみであり、不動産の所有者は引き続き資産管理会社であるため、各不動産の名義変更手続の必要がなく、その後の不動産等の財産に関する意思決定もスムーズに行うことができます。

③相続時に37%控除を利用できる

例えば上場準備会社の経営者が持っていた100万円の株が上場後に1億円の価値になったとしましょう。その後この経営者が亡くなってしまった場合、相続税の計算はこの1億円の株をベースに算定されることになります(※シンプルに考えるため基礎控除は無視)。

一方で、事前に100万円の株を資産管理会社に移しており、この株が資産管理会社の唯一の資産だったとしましょう。上場して株が1億円の価値がついた後に経営者が亡くなってしまった場合、遺族にはこの資産管理会社の株が相続されることになります。1億円の上場会社株を持った会社ですので資産管理会社の株式も1億円になりますが、実は資産管理会社の株式の相続税評価に使われることが多い純資産価額方式では、資産管理会社が保有する資産に含み益がある場合、含み益から法人税相当額(37%)を引いて純資産価額を求めることできる37%控除ルールがあります。本例では、1億から含み益の9,900万円(1億円-100万円)×37%である3,663万円を控除した6,337万円をベースにして相続税を算定することができるため納税額が減ることとなります。

特に上場準備会社の株式については上場後に時価が非常に大きくなる可能性があるため、この37%控除のメリットは大きいです。

(2)所得税率と法人税率の差を利用して節税ができる

下記の表のとおり、所得税率は累進課税なので所得があがれば上がるほど所得税率が上がっていきます。

課税される所得金額税率控除額
1,000円 から 1,949,000円まで5%0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円 以上45%4,796,000円

出典:No.2260 所得税の税率|国税庁

一方で法人税率は下記のとおりであるため、財産から生じる収益を資産管理会社に移すことで個人+資産管理会社で支払う合計の税金の支払いを下げることができます。

区分適用関係(開始事業年度)
平28.4.1以後平30.4.1以後平31.4.1以後令4.4.1以後
普通法人資本金1億円以下の法人など年800万円以下の部分下記以外の法人15%15%15%15%
適用除外事業者19%19%
年800万円超の部分23.40%23.20%23.20%23.20%
上記以外の普通法人23.40%23.20%23.20%23.20%

出典:No.5759 法人税の税率|国税庁

(3)経費計上できる範囲が広がる

例えば法人は役員報酬や退職金、法人保険の保険料や社宅費用などを経費計上することができ、個人より経費計上の範囲が広いです。この特徴を利用して、法人を設立することで個人では経費として計上できなかったものが経費として計上できる可能性があります。経費計上できる範囲が広がれば支払う税金の金額を減らすことができるため節税になる可能性があります。

(4)繰越欠損金控除の期間を延長できる

繰越欠損金の控除とは、過去に赤字の年がある場合、当期の利益から控除することができる仕組みです。利益の金額を減らすことができるため税金の支払いを減らすことができます。青色申告で確定申告を行っている個人事業主の場合は、損失を繰り越せる期間は最長3年ですが、法人である資産管理会社では、この期間が10年間となるため、大きな赤字(損失)が生じることが見込まれるのであれば資産管理会社を利用した方が税金の支払いを抑えることが可能です。

(5)社会保険に加入できる

資産管理会社は原則として社会保険に加入する必要があります。個人の場合は国民年金や国民健康保険に加入していると思いますが、資産管理会社を持つことで厚生年金や健康保険に加入することができます。これによって、将来的な年金額が増加するほか、役員が扶養している家族も追加の費用負担なく社会保険に加入させることができる等の一定のメリットがあります。

資産管理会社を利用するデメリットと注意点

(1)コストがかかる

資産管理会社を利用するためには一定のコストがかかります。初期費用(会社設立の費用や資本金の拠出)の他、維持費として確定申告に関する税理士への支払い費用等も毎年発生します。また、個人⇒資産管理会社に財産を移動する際も移転費用(不動産取得税や登記費用等)が発生する可能性があります。

(2)お金を自由に動かせなくなる

資産管理会社に財産を移した後、その財産は資産管理会社のものとなるためオーナーが好き勝手に利用することはできません。お金が欲しい場合は資産管理会社から役員報酬として受け取ったり、資産管理会社から借り入れを行う等で対応していくという点に注意する必要があります。

(3)相続税の支払対策について考えておく必要がある

相続が発生した場合、遺族は資産管理会社の株を相続することになりますが、受け取ったのはあくまで株でありキャッシュではないため、手元の資金が十分でない場合は相続税を支払うことができません。事前に役員報酬という形である程度キャッシュを遺族に渡す等、将来の相続税の支払いに備えるための対策を行う必要があります。

資産管理会社を利用すべき人の例

(1)不動産投資を行っている大手勤めのサラリーマンや医者等

サラリーマンでありながら副業として不動産を複数所有する方は上記に記載した資産管理会社のメリットを享受できる可能性が高いです。一般的なサラリーマンが多くの不動産投資を行うのは難しいため、外資系や日系大手に勤めているサラリーマンや、医者や弁護士等の専門家等が該当すると思います。

(2)上場準備会社の創業者や経営陣

上場準備会社の創業者や経営陣の持ち株は上場達成後に大きく価値が上がる可能性があり、上記に記載した37%控除のメリットが大きいため利用を検討すべきだと思います。特に、相続が発生した場合は結局遺族から会社が自社株買いという形で株式を買い取ることが多いため、資産管理会社を利用して事前に相続対策を行ってもらうことで、自社株買いの時に必要な資金を抑えることができ(=会社側の将来のキャッシュアウトを抑えることができ)、結果的に会社の財務健全性の強化にもつながるという側面もあります。

(3)相続税の発生が見込まれる資産家

相続対策を考え始めた資産家も利用を検討してもよいと思います。役員報酬という形で親族にお金を渡していくことで生前相続の対策として利用しながら、実際に相続税が発生した場合の納税資金をためておくことができます。

まとめ

資産管理会社の設立は、節税効果等が期待できる一方で、設立・維持コストや税務申告の複雑さなどのデメリットも存在します。メリット・デメリットを十分に理解し、税理士などの専門家と相談しながら、慎重に検討することが重要です。

また、そもそも相続した方がいいのかというのは論点があると思いますので自分の中で整理するとよいでしょう。親族間の争いを避ける観点や、相続しても遺族が必ずしも幸せにならないと考えている方も多くいるためです。例えば大富豪のビル・ゲイツも自身の財産の1%以下しか相続しない方針であり、他の数多くの有名人も同様に子供にはお金を残さない方針をとっています。

節税対策に関する考え方については【法人経営者&個人事業主必見】知っておくべき節税対策の考え方 で記載していますので、本記事で記載した節税の内容が課税の繰り延べなのか、税金の減額なのか等を考えてみていただくことをおススメします。